17.レオナの能力
✝ ✝ ✝
教えた後の吸収力は凄かった。
もう動きもすばやくて申し分ない。戦闘面では問題ないだろう。今度は話術の勉強だ。
「解った? そんな時は思い切り甘えて相手に、警戒させるなんて考えさせないほど傍にいるの。もちろん相手が気を許すまではこれ以上ないほど親身になる。これが鉄則だ」
「はい。ということは出来るだけ笑顔で接すればいいのね」
ただレオナが先輩になるカナにくっついて行動を見るだけでなく、二人でペアを組んで仕事をこなすことも増えた。
「基本はこれだけだな。後は実践だ。慣れてないと必ずボロが出るから」
「早く、身に付けなきゃ。仇討ちが出来ない」
この頃は仇討と呟くのが癖になっているらしく、レオナは日に何度も同じこと口にする。稽古を終えたお昼時にカナは訊いてみた。カナはレオナに基礎を教える間、仕事は満足にこなせないだろうとおもい、組織にもそう伝えてある。優秀だといわれることが多いカナには仕事が途絶えるということはない。きちんと任務をせよという文句が届いていたが、そんなことを気にするカナではない。
「ずっと気になってたんだが、親は憎くないのか?」
彼女にとって難しい問だったらしく首をかしげている。言葉を探しているらしい。
「解らないわ。レオ兄がいたし、淋しくはなかったから」
「そうか」
納得したように相槌を打って彼女はレオナの髪をかき混ぜた。
「頑張りな。なんたってジョンは私より上手なんだからな」
「嘘! あんな男がカナ姐よりも凄いの?」
「ああ。残念ながら一度も勝ったことがない。殺しの技術やスリの狡猾さまで何もかもな」
標的はかなりの実力者だというのにレオナは落胆した様子もなくカナに向き直った。
「それならまずはカナ姐を超えなきゃいけないんだ。絶対やってみせるんだから」
「いいね。そんな感じだ。明日にはレオナにも今までやったことない場所で稼いでもらうから。これから会議を始める」
カナと行動した中で初めて言われた言葉にレオナは胸を躍らせた。気持ちを切り替えて、明日について話し合った。
✝ ✝ ✝
翌日のレオナとカナの犯罪風景ならぬ稼ぎの様子である。二人は比較的治安のよい中級地区の出店が並ぶ通りを歩いていた。食糧を買うために集まり、ごった返す店先。そのありがたい客を少しでも逃すまいと声を張り上げて客を入れる店員。レオナは物珍しそうに首をひねって様子を観察する。
「あまりキョロキョロするな。堂々としていろ。誰かの記憶に残ってはいけない」
「こんな活気のいいところ見たことないよ。ここなら仕事も楽そうだね」
「だろ? あんな寂れた所では何時とおるかも分からなっただろう」
その通りだ。標的を通りかかるのを待って誰も来なくて、一晩草むらの影で過ごしたこともあった。
「それに田舎の成り上がり貴族よりも効率がいいんだ」
レオナの態度が落ち着いてきた時、カナの視界にある若い夫婦が映った。
「あの人たちなんてどう? 洋服屋に入った夫婦。幸せそうに話していて、危機感がまるでない」
遠くから夫婦を盗み見ていると、一目で優雅さと典雅さがにじみ出ていると分かる。煩雑な場所を歩きなれていない人たちは貴重品をすぐに取り出せるようにしまうものだ。
「流石カナ姐。良い眼をしてる。財布を手にもつなんて不用心ね」
「そろそろだ。旦那が離れるよ」
一人で見たいからという話になったのか、夫人は一人で小物を見ている。
夫人の手には厚く膨らんだ財布が、しっかりと握られている。
「じゃあ開始だね」
二人はうなずき合うと、一度別れた。レオナが布を見ている婦人に話しかけた。
「着ていらっしゃるドレス、とても似合うと思いますわ」
夫人は顔を赤らめていたが、会話に乗ってきた。
「そんなことありませんわ。それよりもこの生地はすばらしいです」
お店の商品がいたくきにいったらしい。
「そうですわね。裏地に使われている質のいいこと。何をとっても素敵ですわ。夫人にお似合いでしょう」
レオナが夫人のセンスや似合うと褒めているうちに夫人の手から力が抜けてゆく。どうやら見知らぬ人ばかりで緊張していたらしい。そこへ礼儀を知らない店員を装ったカナの登場だ。
「ご夫人方、前を失礼」
「あ、こちらはおいくらなのですか?」
「すこし値が張るんで」
カナが金額を示すと夫人はにこりと笑った。もちろん騙すための金額だ。その値札もカナがつけたもので、うまくいけば彼女たちの懐にはいる。だから決して安くはない額に設定したのだ。
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