14.生きる術を学ぶ

 着飾っている人物に対しても、置いてある商品にもレオナは興味津津だ。

 カナは白いドレスを選ぶことにした。

 清楚なデザインであったなら天使の魅力を引き立たせてくれるにちがいない。

 どんな種類のものを選ぶのか決めても、想像した服にたどり着くまで一苦労だ。

 なぜなら取り扱っているものは舞踏会用のドレスである。

 どれもレースがあしらわれ、ふわりと見せるため飾りがゴテゴテと付いている。その中で一着だけ、細みのドレスがあった。


「生地もなめらかだし、これがいいんじゃないか?」

 手に取ったのは給仕の人が来ているような飾り気のないものだ。剛かという点にはかけるが、レオナによく似合うだろう。


 レオナも興奮している。

「こんな奇麗なものを着れるんだ」

 試着してみて、とてもうれしそうに笑った。


「あとは戦闘用に動きやすいものだな」

 戦闘用ならば下級地区にしか置いていない。カナの行きつけの店に案内してくれた。黒くスラッしているものを選んだ。

「これならば仕込みの武器を身につけることができる」


 それにカナは進言してくれた。

「一人はつらいだろう。どうせほとんど一日中そばにいることになるんだ。レオの荷物もまとめて持ってくると良い」


 レオの部屋に入って移動できる者は全部追ってきた。とはいってもレオが所持しているのは土地の権利書位なものだった。


「もう夕方になるんだな。後二軒回るところがあるから付いておいで」


 カナの計らいで武器屋に来ていた。カナは毒について多少の知識はあるものの、専門は剣だ。下級地区でも一番小さい武器やらしい。


 カナは同僚から店の紹介を受けた。教えてもらえなければ、知ることはなかったろう。それくらい知名度はない。


「この店は半分以上剣を扱っているんだ」


 店の中を歩きながら説明を始める。商品の置き方は様々だ。安い品物は樽に入っている。気にいったものを手にとれるようになっている。

 ある程度高価な品物は棚に入っている。棚に入っているものは説明書きが付いている。

「まずはナイフを買ってあげよう。あったほうがいい」

 選んだナイフをレオナに持たせ、カナはまた移動した。


「カナ姐が得意な武器って何なの?」

「ああ。そうかレオナの前で戦闘の恰好したことがなかったな。私の武器はこれだ」

 カナは樽の前に行き、無造作に抜き取った。

「俗に言うロングソードってやつだな」


 カナの腰まである刀だった。

「もってみな」

 促されたレオナは柄を持ってみた。筋力がないわけではないが、切っ先がふらふらしている。きっと構えの問題だろう。


「レオナは初めてだし、こんなに長い武器である必要はないが、構えを教えるから一応持っておきなさい」

 カナは、馴れた様子で店内を進んでいく。


 今度はカウンターのような場所に出た。本来ならばここに店主が立っているはずだ。しかし近くに人影はいない。その代わり、カウンターの上に箱が置かれている。木製のその箱は色あせていて、ずいぶん使い込んでいるように見える。


 カナは財布を取り出した。金額を確かめると、迷いなく箱にお金を入れた。

「お店の人いないの?」

「出入りする人は柄が悪いからな。開業して二年くらいは接客していたが、文句をつける奴が多くて諦めたんだそうだ。私も店主の顔はしらない。お金を入れておく箱はあるから、私は一応入れている」


 この作法も同僚から聞いたもので真偽は定かではない。

 レオナはきちんと金の管理が出来ているのか心配になった。カナはレオナの様子をみてボソリと言った。


「もう金ないよ」

「え?」

 驚いたレオナが振り返ってみると、箱の中身はカラだった。

「管理者がすぐ近くにいるらしい。いつも目を離すと消えているから。心配することはないぞ。武器も毎回補充されているし、平気なんだろう。気にするだけ損だ」

 レオナはそんなものなんだと言い聞かせる術を学んだのだった。


 

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