15.レオナの専門
その後も道を歩きながらこんな会話をしていた。
「この世界で生きるのならば、武術も多少必要だ。専門はどうしたい? 私のように剣を扱えるようになるか」
カナは言葉を切った。伝えるかどうか逡巡したが、参考のために伝えることにした。
「ジョンは毒が専門だな。毒について学べば、ジョンの攻撃は攻撃とは言えないだろう」
「そうなんだ。何が向いているのか分からないよ」
カナはどうやって考えを伝えるべきか悩んでいた。
何が向いているのか他人が口を出す問題ではないと思っているからだ。
実際にやってみないと分からない。
「私は武術がいいと思うが……」
彼女の外見は可憐そのもの。まさか相手も力があるとは考えない。
「専門分野でアイツより強くなってやる。より屈辱的な死にしたい」
「そうか。わかった」
毒の耐性をつけることは大変な苦痛を伴う。
それを想像してカナは苦い顔をしたのだった。
武器を持って案内されたのは下級地区の森だった。
「曇ってきた。練習にはちょうどいい」
兄のなれた手つきを思い出しながら、ナイフを振り上げてみるものの、切っ先がふらふらしているからか素人の構えだと簡単にわかってしまう。
一日中剣の構えを練習した。その次は受け身の練習。この二つの作業を三日間。
相手に向かって練習、連続で攻撃できるようにする練習を七日間。
そして最後に獲物を使って練習。
✝ ✝ ✝
ジョンがなくなってから、カナには月一回、習慣としていることがある。
本を漁ることだ。毒の耐性をつけることはジョンのやり方しかきいたことはない。
カナの師匠からジョンの評価を聞いたことがあった。
「ジョンは素質があるからの。毒に関しての執着がすさまじい。
かなり大変な訓練になるだろうが、彼ならば耐えられるだろう」
そういっていたのだ。カナ達の師匠はとても厳しい方だった。
それをレオナでも実行してよいものか判断がつかない。
「可愛いレオナに間違いがあってはいけないからな」
ふらりと立ち寄ったのは中級地区。古本屋が立ち並んでいる。
しかし,
カナが望んでいる書物は一般には出回っていない。
本探しを始めたころは見つからなくて一日ふいにしてしまったこともあった。最近は薄暗くて細い路地を中心に回るようにしている。
今日も裏路地に入ると、ランタン一つぶら下げている商店がある。タイトルを覗いてみれば、『暗殺とはなにか』と書かれた書物が目に付いた。じっくり目を凝らしていくと、『毒について』と文字が見えた。
「これ下さる?」
店の者と思われる影に聞いた。黒いマントをかぶってる。
いかにもあやしい商売にかかわっているのだと思われる。
店主には、高いぞと脅されたが、そんな些細なことにこだわるカナではない。レオナのためならば、お金を惜しまない。
家が三軒買えてしまうような金額を提示された。カナは値切るでもなく、懐から札束を取り出した。
「これで三冊目ね。これで確かな情報といえるかしら」
空になった財布を見ながらつぶやいた。
「レオがもっと素直だったら、私の力で普通の地域に住まわせてあげることもできたのに。意地を張るものではない」
✝ ✝ ✝
カナから許可がでた。
「もう武術に関しては言うことないわね。
ではこれからジョンの専門分野のお勉強よ」
今度は二〇日間かけて毒を体に教え込む。
そのためにまた家を移動したのだった。
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