13.報告と新たな依頼と残されたもの

 それでも執拗に答えを迫るものだから、ジョンは重い口を開いた。


「失礼だとは思うのですが……この大きな屋敷にしては人数が異様に少ないかと」

「わたくしの屋敷の者たちは不甲斐無く、何も出来なくて。もっと能力の高いものを雇いたいのです」

 

 ジョンの手を握り、猫撫で声で続ける。

「屋敷にただ出入りするだけの無能者は、全て解雇いたしましたの。今居るのは最低限の給仕だけですわ。給料は出します。ですからもっと色々とお願いしたい事が。契約を二ケ月間としたいのです」


「解りました。何なりとお申しつけください」


 男はひれ伏したその下で不気味な笑みを浮かべていた。それすら気付かずに夫人は依頼を話し始めた。


「ではわたくしの周りで許されない禁忌を教えておきましょう。わたくしはほんの少しでも夫を思い出したくありませんの。もちろん顔や名前も無理です。吐き気がいたしますから。それ以外の行動でしたら咎めません」


「解りました。仰せの通りに致しましょう」


 依頼主は明らかにほっとした様子を見せた。


 ✝ ✝ ✝


「そう。わかったわ。ありがとう」


 カナが手にしている紙は、レオの遺体の状況が記されている。


 首をとられた遺体は親しい者が見るには辛い。

 レオナほどの哀しみではないもの、同じ年が死んだというのは衝撃的だ。


 客観的に死因を判断できなくなる事例もあるらしいと聞いたことがある。


 カナとて自分がそうであるとは思っていないが、第三者に見てもらうこともいいだろうという判断からだった。


 部下に死因について調べてもらった理由はそれだけだったが、部下の意外な一面も知ることが出来た。


「あの子、資料の作り方うまいのね」


 そんな感想を持ちつつ、カナは資料に目を落とした。


 刃渡り七センチほどの短剣で刺殺。

 それもただの短剣だけではなく毒を塗ってあった。


 知識がある者にとっては解毒も作れる簡単なものだが、作成には三日ほどかかる。

 放っておけば半日で意識がなくなり、処置が悪ければ死につながる。


 レオは武術においては秀でていた。

 それ以外は特に優れているということはなかった。

 そんな彼だったから、毒についての知識も耐性もなかっただろう。

 瀕死の彼が下した決断は正しかった。レオナを差し出したとしても、彼が助かる可能性は低かった。


 このことをレオナに話すことは躊躇われた。

 徹底的に殺しに手を抜いていない凄腕の殺し屋の実力を知ることはない。

 

 仇討ちを誓った彼女に現実を打ち明けることはまだ早い。

 そう思って今日もレオナに会いに行った。


 レオナが一人になってからというものカナは行動を共にしている。

 大抵、午前はそれぞれの仕事なのだかレオナを連れていくといってきかないカナが

 無理やり連れているし、午後は人気のない湖で訓練や指導が日常になっているせいだ。

 レオナは最低限の武器の構え方も知らなかった。指導はそこからだ。

 ✝ ✝ ✝


「今日は買い物の日だ」


 カナが元気よく宣言した。本当はレオナの服装面で口出ししたいと点は山ほどあったのだ。

 しかし、レオから「土地を買うため倹約」と突っぱねられてきたのだ。


 カナが「金を出すからレオナにおしゃれを」といっても聞かなかった。


 治安が悪いからこれ以上綺麗になっても身を売る誘いが増えるだけだと返されたからだ。

 レオの意見も分からないではないが、着飾った綺麗な天使を見てみたいと思うが女心というものだ。


「服屋に行こう」


 

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