12. 依頼状況の報告
扉が開く音がして、中年女性が入ってくる。
ジョンは礼をとり、顔を伏せた。
依頼主である中年の女性が声を発する。
「そなたが専属官吏のジョン・ブラットですね。
任務、御苦労なことでした――あなたどこかでお会いしたかしら?」
丁寧な口調で話しかけるが、どこかぎこちない。
それは彼の服にある赤いシミを見てしまったから。
「ございません。人違いでございましょう」
男にしては高く、深みのない声が返答を述べる。
「貴殿の猫に触れ、あろうことかあばら家で飼おうとしていた男を
始末いたしました」
殺したのだという報告を聞いて、日頃うるさい位文句をつけるはずの傲慢な婦人は血の気が無くなった。
「そう、でしたか。わたくしは、猫が戻ればそれでよかったのですよ。
もうその話は終わりにして」
「お気持ちは分かりますが、請け負った依頼は完遂することは規則ですので。
報告しなければお返しするわけにまいりません」
「そ、そうなのですか。では報告を続けて頂きましょう」
動揺の欠片もない機械的な声で決まりきった報告を述べていく。
「レオ・リーファードと呼ばれており、二十五歳。金髪で瞳は黒。長身、堀の深い顔で逞しい体躯をしており始末に手間取ったのです。証拠として首を取ってまいりましたがご夫人には刺激の強すぎるものですので省略させていただきたく思います」
夫人は無意識に唇を動かしていた。
「レオ・リーファード――あの子が」
か細く言ったその一言をジョンは正確に聞き取った。
「失礼ですが、あの子とは?」
「いえ。何でもありませんわ。それよりも終わったのならば、
わたくしのリミットちゃんを見せてくださいませんか?」
ジョンが猫を床に放す。
「必要以上に触るなとおっしゃいましたので、
保護した状態のままとなっております」
汚れているものが大嫌いの夫人だ。
使用人に綺麗にさせるのかと思ったがジョンの予想は外れた。
夫人は猫を抱きしめて、背を撫でて、怪我がないかどうか確かめていく。
「こんなに泥だらけで。すこし痩せたんじゃないかしら」
「いいえ。リミットちゃんは健康体ですよ。もう少しやせたほうが良いくらいでしょう。あとは爪がのびて来ているようですね」
夫人はピタリと手を止めて、恨めしそうにジョンを見つめた。気を利かせて手入れをしてもよいではないかと訴える視線だった。ジョンは気付かないふりをして猫を眺める。太陽が差し込んでいる絨毯の上で丸くなってしまった。
「ところで、ジョン官吏」
夫人は咳払いをして、詰め寄ってきた。
「この屋敷を見て何か思いませんの?」
「何か、とは」
分かっているだろうに、ジョンは答えを濁し、質問で返す。
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