11.依頼内容
✝ ✝ ✝
暗殺に成功したジョンは、地区を越えようとしていた。
地区を越えると口にすることは簡単でも、実行することは困難である。
なぜなら地区の間には深い谷が存在する。
この谷を越えるには橋を渡らなくてはならない。
昔はロープと板でできた橋だった。
かけなおしてから長いときがたつ。
鉄を使って全面的な補強をする案も出ていたが、まだ高価である。
「上級地区と中級地区の間は頑丈な橋があるのにな。
ここはいつまで経っても駄目だな」
上級地区と中級地区は提携して橋を作っている。
中級地区と下級地区間はどうにも資金が循環していないことが原因のようだ。
そのため腐食した部分にだけ金属がある。
外観的にはいびつであるが、強度の面ではかなりの変化だ。
それでも一歩足を踏み入れるとギシギシと軋む。
一般人で橋をわたるものはあまり居ない。
中・上級の地区が栄えているのに、下級地区は寂れている。
「めずらし。人が居る」
縄を両手で持って震えている老人が居る。真ん中が一番怖いのか座り込んでいる。
「あの様子では、一晩かかっても渡れないな」
老人の手助けをしてやりたいところだが、
ジョンの腰には猫と暗殺の証拠を下げている。
手助けできるほどの余裕はない。そして彼は急いでいる。
かわいそうだが落とすしかないと考えた時、老人が動いた。
ソロリと動くと状況も変わってくる。
「もう少し動いてくれれば、向こう側の木に移れそうなんだよな。もう少し」
ジョンが三十数えた間に、老人は十歩進んだ。
反対側に茂る林の枝にロープをかけることができる範囲まで来た。
ジョンは腰に常備していたロープを枝に結び付けた。
「よし。これでいいな」
慎重よりも高いから振り子のようになってくれる。
少々危険は伴うものの、
数々の修羅場をくぐってきた彼にとってはたいした芸当ではない。
対岸にぶつかりそうになるが、小型のナイフを突き刺して着地に成功する。
「あぶね。腰に色々下げていると危ないな。今後は考えよう」
彼は自力で安全な場所に登っていった。橋を振り返って老人に言う。
「爺さん。気をつけて渡れよ。他の人についてきてもらえ」
老人はにっこりとして、残りの橋を渡り始めたのだった。
彼は数秒眺めていたが、猫がニャーと鳴いたので、仕事を思い出したのだった。
✝ ✝ ✝
ジョンは無事、依頼主に面会することができた。
仕事に対する彼の姿勢は「依頼を受けたら、最後の報告まで完璧に遂行する」だ。
彼は自分の仕事が世間的に良いものだとは思っていない。
依頼だと連絡をよこしたくせに警察を呼んでいたり、
任務を遂行したにも関わらず報酬を払わないなど問題が多いのだ。
捕まえようとする依頼主には死を提供してきた。
そうなってしまった案件が一三件ばかりある。
今回の依頼主の情報を詳しく記した紙を眺めている。
依頼内容、期限、面会場所などが記されている。その紙と通された部屋を見比べる。
(ここで捕まえようと計画されたら、逃げるのが大変だよな)
依頼主を待つ間、ぼんやりと周りを観察していた。
あらゆることを想定しておくにこしたことはない。
(窓は、はめ殺しだし。かなり分厚いガラスを使っている)
窓を破るにしても一回で綺麗に割れるとは思えない。
ドアは分厚く、鍵も最新のものらしい。
この家で戦闘をするには不利だと推測した。
紙の下部に依頼主の性格や注意事項が並んでいた。
「未亡人、ヒステリックまでに綺麗好き。格好には注意せよ」とある。
(なるほどね。女一人なら暴れられる可能性は低いな)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます