6.地域格差

 ✝ ✝ ✝


 レオ達のように地獄の扱いを受けている地区もあれば、裕福な地区もある。

 上級地区という場所では違いがはっきり分かる。


 広い敷地内には噴水があり、花が咲く綺麗な庭があり、馬小屋もあった。

 二階建で白色を基調とした建物に入る。

 一歩足を踏み入れれば王侯貴族が悠然と歩いている場面が想像できる。


 螺旋階段を上がると、右手にも左手にも廊下が広がる。

 きっと数十の部屋があるに違いない。


 数ある部屋の中で、階段を上がってすぐ右の部屋に入る。

 その部屋は金色を基調としてきらびやかである。


 そんな場所に悠然と立ち、怒鳴っている中年の女がいた。

 露出度が高いドレスを着て、首や目元に年相応の皺が目立つ。


 髪はまっすぐ肩にかかる程度まで伸ばされていたが、

 艶にかけ纏まりはない。白髪も目立っている。


「わたくしのリミットちゃんはどこなのです? 早く見つけて頂戴!」


 ヒステリックに叫んでいるこの屋敷の女主人はマリ・ジャクソン。

 彼女は苛立ちからか、金髪を掻き毟る。


「マリ様、落ち着いて下さいませ。その猫は、治安の悪い下級地区にいるようで」


 彼女はある言葉に反応し、報告者を睨みつけた。


「『その猫』などとは、なんて無礼な呼び方を! リミットちゃんですわ」


「申し訳ございません」 

 毒々しいほどに真っ赤な口紅が、罵りの言葉を紡ぐ。


「謝罪は結構ですわ。

 あんな汚らわしい地域に入ってゆくのを何故止めないのですか?」


 近くにあるものを投げつけてきそうな興奮状態の夫人に恐怖を抱きつつ、

 報告を続ける。


「で、ですからっ。保護出来なかったのです。

 使用人の手では触るなとおっしゃいましたし、

 不注意で我らの財布が無くなってしまい」


「財布など知った事ではありません。

 水仕事や畑仕事で汚れたその手で、あの子に触るなど許しませんわ! 


 即刻死罪です。なんて、汚らわしいこと! 

 お前達があの仔の周りをうろつくだけでも嫌ですのに」


 なんとも支離滅裂な要望である。


「あの子を見付けることも出来ない、役立たずは解雇ですわ! 

 早く探していらっしゃいな!」


 報告者はしっかりした常識を持っていたのであろう。

 怯えながらも意見を出した。


「しかし、政府の役人に聞かれたほうが確実では」


「あんな無粋な輩の手は借りたくはありません――お前達が探せなかったその時に

 考えますわ」


 酷い暴言に報告者は青ざめていた。

 これ以上主人を刺激しないように、いそいそと退出していった。


「わたくしとしたことが。こんなことで怯えるなんて、はしたないですわ。

 もうあの子はいないかも知れないのだから」


 彼女は自分に言い聞かせるように呟いていた。



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