3.治安のよくない場所での仕事
一番多く稼げる仕事が警備関係だった。治安のよくないところだったからゴロツキとどう違うのかは説明に苦しむところだ。
このようにその日暮しの日々を続けているうちに彼は二十五歳になった。
「残ったのは後悔だけか……」
子供だった彼は甘かった。親が笑って迎えに来てくれることを信じ切っていた。
現実はそんなに甘くはないのに。
ギィと扉が開く古臭い音で我に返った。
「ただいま!」
家に入ってきたのは――
「レオ兄、また落としていったんだよ。今回は十五万アール入ってる」
明るく高い声を響かせてこちらに寄ってきたのは妹のレオナ。
成長した今では腰まである金髪と華奢な体を持つ。
近くの村では天使の再来と密かに騒がれている。
「よ、よくやった。相手が金持ちだったんだな。レオナ、その猫は?」
レオナの後ろを歩いてきた猫が目に付いた。
長い白い毛を持つ小綺麗な猫だ。
かなり太っているように見える。
レオの不審な視線に気づいたのか猫について説明を始めた。
「この猫ね! すっごい可愛いの。私の後についてきて離れなくて」
レオナが愛しそうに目を細める様子から、ここで飼いたいのだとすぐに分かった。
だがそれには問題がある。
分からせる為にわざと高圧的な言い方をする。
「飼うには治安が良くない。猫なんて飼ってみろ。変な奴等に絡まれるのがオチだ。面倒なことに巻き込まれたくないなら、捨ててこい」
「でも」
「毎回食事を与えてやれる程うちには食べ物がないだろうが」
レオナは必死に説得を続けてくる。
「私がこの子の分まで稼ぐし、レオ兄には絶対に迷惑はかけないから」
「なら条件がある。移動しよう。違った生活をしたいだろ?
綺麗な事が沢山あるんだ」
10年前に治安のよい地区に行けばよかったのだ。
普通地区だったならばこのような技術ではなく、
商いの話術を会得できたことだろう。
それが出来ずにレオナを暗闇に引き込んでしまった。
幼いころの服を継ぎ合わせて着ていることが当たり前になっている地区だ。
ここでは綺麗な服を着ることや清潔な住居に住むなど到底叶わない。
レオは自分の力の無さを嘆いた。
そうして人よりも多く危険な仕事をこなしていった。
もっともレオの言う仕事とは下級貴族の護衛が主だった。
「護衛だけしていればいいから楽だ」と言われるかもしれないが、
実はこの契約では一人で盗賊10人以上相手にしなければならない。
油断したら死に直結する。体力がなければ渡っていけない社会なのだ。
レオは道にもとろうともレオナをより安全な場所に置きたかった。
ただ単にレオナには可憐でたおやかな女性でいてほしかっただけ
なのかもしれないが。
そんな自分の内面を自己分析してしまい自己嫌悪に陥った。
話し合ういい機会だからと条件に出したのにレオナは頬を膨らませてしまった。
「なんでそんな事言うの? スリの生活から足を洗うことなんて無いよ。
お金を持っている人からちょっと貰うだけなんだよ」
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