8月28日 絶対に退かない生徒会長
「ほら行くよ。決戦の時なんだからしっかりしてよね」
そう言って祐奈は僕の手を引いて彼女の言う決戦の地に向かった。帰りのホームルームが終わると祐奈は一目散に生徒会室に駆け込んで行った。
祐奈はこの高校の生徒会長で、成績優秀、容姿端麗、文武両道と才色兼備の非の打ち所がない人だ。僕はそんなはちゃめちゃな彼女の幼稚園来の幼馴染ということで今まで一緒に過ごしてきた。彼女に言われるがまま僕は生徒会の副会長になってしまった。
破天荒な祐奈を影で支えて誰よりも応援してきた自負がある。そんな僕に今人生最大の試練が訪れた。
なんとしてでも祐奈の野望を阻止せねばならないのだ。
「なぁ、やっぱりさすがにやめといたほうがいいんじゃないかな。世間体もあるわけだしさ」
「何よ。あなた私に盾つく気?」
「いや、そういう訳じゃなくて」
彼女の強い語気にいつも凄まれてしまい僕はいつも自分の意見を述べることができない。
親しい間柄に指摘をすることは赤の他人にするよりもよっぽど勇気が必要になる。
しかし僕はそれでも今日だけは彼女を止めなければならない。十七年使う機会がなく貯まりに貯まった全ての勇気をつぎ込んで。
「さぁ、行くわよ! 準備は整ったわ!」
「いやいやちょっと待ってよ祐奈!」
「大丈夫よ、あなたは私の隣にいるだけでいいの。それだけで私は何でも出来る気がするわ」
そう言って疾風の如く歩みを進める彼女に僕の勇気は不発に終わってしまった。ごめんなさい神様仏様御両親様。祐奈を守れなかった私をどうかお許しください。
学校の廊下を闊歩する祐奈の足はとある部屋の前で止まった。コンクリート造りの建物に似つかわしくないその重厚な黒い木の扉、校長室と厳かに掲げられた表札に目もやらずに祐奈は門を叩いた。
「校長先生失礼します。鈴木です」
「どうぞ」
部屋の中から優しい女性の声が聞こえた。
「先生、折り入ってお話があるのですが」
「またあの件についてですか? 鈴木さんもう何度も言いましたよね。絶対にそんなものは作りません」
普段は穏やかな校長先生が声を荒げるところを僕は初めて見た。
そしてまた普段の調子で祐奈を宥める。
「鈴木さん。これはあなたのためでもあるのよ」
「えぇ、はい。そう言われると思いました」
ぶっきらぼうにそう言って祐奈は手に持っていたカバンの中から分厚い封筒を取り出して机の上に叩きつけた。
「ここに三百万あります。これで学校に喫煙所をつくってください」
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