7、雨

 あのね一人の日はね。

 これ聴いてるの。

 しずくのアイコン。

 タップして。

 聴こえてくるその音。

 いろんな国のがあってね。

 パリの小雨。

 オレゴンの雷雨。

 スコットランドの小川に降る雨。

 ノースカロライナの暴風雨。

 ヘルシンキ駅に降る雨。

 これ聴いてると眠れるの。

 ひとりでも。

 濡れた髪のまま眠るその子の癖。

 だって髪乾かして寝たら次の日爆発するんだもん。

 私はその子の濡れた髪をなでる。

 ごめんね。

 ベルリンに降る雨の音。

 いってらっしゃい、

 とその子が言った。

 

 ロングスリープ中は夢を見ないと言われていたのに私は夢を見た。

 雨が降っていた。

 赤茶けた大地に。

 私は一人立っている。

 赤い傘が差し出される。

 横を見ると、傘を持った見知らぬ少女が微笑んでいる。

「この雨、海になる?」

 うまくいけばね。私は少女から傘を受け取る。

「海になればいいなあ。海になったらセイウチを見にくるんだ。セイウチはいる?」

 どうかな。でも、いろんな生き物が住むようになるわよ。

「この雨、あなたが降らせてくれたの?」

 うん。

「やっぱりね」

 ねえ、うまくいくかな。私たちはうまくやっていけるかな。

 少女がいた場所には車椅子に乗った老女がいた。

「慎重にやっていけばだいじょうぶよ」

 私は目が覚めた。 

 目が覚めた時、私は地球から六千万キロメートル離れた場所にいた。


「そんな雨を見たことがあるかい?

 晴れた日に降る雨を」

 おっと、悪かった。

 作業の邪魔だったかな。

 そうかい。

 ありがとうよ。

 ああ、この歌かい?

 昔の歌だよ。CCR。

 ああ。

 見たいもんだね。 

 ここに降るのはまだまだ先のことだけどな。

 この赤茶けた大地にな。

 とんでもないことを始めちまったもんだよな、俺たち。

 さっきの歌?

 いいぜ、データ送ってやる。

 地球のあの子に教えてやりな。

 今日は太陽風が弱いから通信もスムーズだぜ。

 さて、今日もハードな一日になりそうだ。

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