6、曇り

 曇りの日はつながっていると彼女は言う。

 ほら。

 メールにさ、フラグつけるじゃない。

 大事なメールに。

 ネットの買い物関係は赤、友達からは青、親からは緑、あなたからはピンク、みたいに。

 ああまあそうだね、と僕(てか、なんでピンク?)。

 曇りの日の曇り具合とか、温度とか、湿度とか、そういうのがね、つながってる感じ、わかるかな。

 ああこの曇りの感じ、小学校六年生の習字道具持ってくるの忘れた日とおんなじだなとか、あるでしょ。

 いや、ない、わかんない、わかんないけどすごい記憶力だね、と僕(習字道具って久しぶりに聞いたな)。

 えー、わかんないかー、この感じ。

 独特の湿っぽいにおいするじゃん、曇りの日って、それであーこれあの日と近いなーって、なんない?

 いや、ならないけど、と僕(湿っぽいにおいってなんだ?)

 えー、あたしだけなのか。

 え、もしかしてあたしってエスパー?

 つまり、君の記憶の中で似たような天候の日が分類わけされていて、それが引き出せるってことなのかな、と僕(エスパーって……)。

 うん、まあそんな感じ。

 でも、なんとなくだし、普段は忘れてる。

 曇りの日が来て、ぱっと昔のことがよみがえる感じ、かな。

 なんかほら、曲聴いてさ、昔のこと思い出すじゃない、ぱっと、それに近い。

 なるほど、でも、なんで晴れの日や雨の日じゃなくて曇りの日なの、と僕(ますますわかららない……)

 だーかーらー。

 曇りの日の湿っぽいにおいって言ってるじゃん。

 まあいいや。

 たぶんこれから、あなたと一緒にいた曇りの日のこと思い出すときがくるからさ、そんとき言うね。たぶんそれでわかると思う。楽しみだね。ふふ。

 うん、それは楽しみだ、と僕(いやたぶんわかんないと思うけど、でもまあ、この子、可愛いからいいや)。

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