『丸い地球のどこかの曲がり角で』  ローレン・グロフ

『丸い地球のどこかの曲がり角で』

 ローレン・グロフ  光野多恵子 訳


 フロリダ州在住の作家による短篇集。

 ハリケーンが襲来し、広大な湿地帯に生息するワニや蛇といった爬虫類などといった動植物の生命力、豊かというより猛威をふるう自然や生態系をも飲み込む人間達の開発。経済格差や人種差別が根深い、フロリダという土地を舞台にしたものも多いが、フランスや中米といったフロリダ以外の土地を舞台にした短編も収録されている。しかし他の土地が舞台の小説でも、どこかにフロリダ要素がある。

 理解ある夫と二人の息子を抱えた、リベラル思考の作家という、作者の分身みたいな女性が主人公にした、エッセイや私小説のような味わいのものが自分には面白く感じられた。

 特にモーパッサンを研究するため、小さな男の子二人を連れてモーパッサンに縁のフランスの海辺の村に滞在する「イポール」という一篇が好みだった(「イポール」とはその村の名前)。二人の子連れで言葉もままならない外国、それも辺鄙な田舎に滞在する大変さが感じられるのと、これまで「ドッペルゲンガーを見た作家」ぐらいの知識しかなかったモーパッサンに対する興味が掻き立てられたのが良かったように思う。主人公の作家は若い時に夢中になったモーパッサンの研究をするためにフランスに来たのに、様々な出来事の果てに「なんでこんな最悪な人間について書かなきゃいけないのか!」と急に手のひらひっくり返すまでの過程のあれこれが笑えるし、その件で語られる若い時のモーパッサンのやらかしが最低の極みにも程があった。本全体のイメージも「モーパッサンは最悪」になるほどのインパクトだった。

 それにしても若い時のモーパッサン、酷すぎる……。そんなだからドッペルゲンガーを見て苦しむハメになるんだ、くらいのことは言ってやりたい。


 どういうわけか、フロリダやルイジアナといったアメリカの南西部あたりを舞台にした小説が好きになりやすい。それだけの理由だけで読んでみた一冊でもある。

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