『シロかクロか、どちらにしてもトラ柄ではない』 金井美恵子

『シロかクロか、どちらにしてもトラ柄ではない』 金井美恵子


 小説家の金井美恵子による、雑誌『天然生活』連載のエッセイ第二集。第一集は約二年前の刊行だったので久しぶりの新刊ということになる。

 主にコロナ禍での生活についてのエッセイで、長年使っている木べらや、手芸用品の小売店でものを買う楽しみ、夏に飲む冷たい甘酒、子供の頃に見た怪奇映画の早川雪舟、近所の野良猫の話などが語られている。食べ物に関する話題も豊富で、大陸育ちのお母さんが食べた本物の杏仁を使った杏仁豆腐、柔らかく炊いた蛸のことが印象的だった。

 本書のタイトルは、その猫についての語られたものの章題でもある。愛猫のトラーちゃん(本を通してしか知らない猫のことを〝ちゃん″づけするのってものすごく恥ずかしいが、金井さんの本を通して何年も近況を読んでいたので呼び捨てにもしづらい)が旅立って数年、近所でよく見かける老いた野良猫に向けるまなざしがべたついて無くてこの方らしいなと思う。

 『グレーテルのかまど』や『ダーウィンが来た!』など、NHK(グレかまはEテレだけど)の番組タイトルへの言及が面白かったけど、それよりも「金井さんがグレかまを観ていらっしゃる!」ということに動揺を隠せなかった。グレかま好きな番組だけど、金井さんの本の中に今まで自分が知悉しているものが出てきたことなどなかったので、未だにアワアワしている。エッセイも小説も金井さんの本は私にとっては全然知らない、関わりも無い世界を覗かせてくれるものだったので、まさか自分が知っているものが出てくるとは思いもしなかったのだった。

 そういえば連載時の時事ネタに触れる際に「鬼滅の刃」にもタイトルだけ触れられていたのだけれど、それにもちょっとびっくりした。金井さんの本で「鬼滅の刃」の文字を見るとは……! 


 『天然生活』の連載だからか他のエッセイや小説に比べて辛辣さは控えめだったけど、この本を読んでいた時はメンタルがとことんまで落ちていた時だったので随分救われたような気がする。

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