『ユ・ウォン』 ペク・オニュ
『ユ・ウォン』
ペク・オニュ 吉原育子 訳
十二年前に起きたマンション火災から助けられた過去を持つユ・ウォン。その際に、ウォンを布団に包んで窓から投げ落とした姉を亡くし、落下したウォンを地上で受け止めた通りすがりのおじさんの脚にも後遺症が残った。メディアでも大きく取り上げられたことでウォンは学校でも地域でも腫物のように扱われ、一時英雄のように語られたおじさんは、今でもウォンの一家のもとへ頻繁に金を無心に訪れる。
惨事から助けられた者としての罪悪感や自己嫌悪、優等生だったという姉への怒りや、両親の金や自分の将来を搾り取ろうとするようなおじさんへの憎しみでいっぱいになっているウォンは、ある日別のスヒョンと知り合う。正反対の性格で、学校や近くのビルの屋上に通じるマスターキーを持っているスヒョンと屋上を出入りするうちに、ウォンはスヒョンと弟のジョンヒョンには心を打ち明けられるようになる。しかしスヒョン達が実はおじさんの子供たちだということが明らかになり……。
韓国発のYA小説。女子ふたりものの小説としては、屋上に通じる階段の手前で通常閉められている屋上へ通じるマスターキーを持っている女の子と出会うという序盤から既に強い。その後放課後には近くのマンションの屋上で過ごすようになり距離を縮めるとか、絵になるにも程がある。
スヒョン(と弟のジョンヒョン)との出会いを通じて、ウォンが自分の人生を歩めるようになる様が感動的だった。他にはないような過去を持つウォンだけど、やや冷めたものの考え方や悩みなどは十代の子どもなら多かれ少なかれ抱えている類なものであることにも共感を覚える。
多感な時期に本作と出会っていたら、読みながら泣けて泣けてしかたなかったんじゃないだろうか? 大人でよかった。
いやあ、素晴らしいYA小説だった……で終わってもいいんだけど、そういう当たり障りのない感想の比率を上回るくらい印象にのこったのが、ウォン一家とおじさんとの簡単に切り捨てられない関係のイヤさである。
というか、もうこのおじさんが本当にイヤでイヤで……。わかりやすくゲスな人じゃない所に「イヤな人」としてのリアリティがあり、出色のキャラクターだった。そりゃあこんな人が自分の命の恩人だったら世の中の全てを冷めた目で見てしまうし、実の家族から縁を切られるのもやむなしという説得力に溢れている(巻末の作者の言葉に、初っ端から「昨年のはじめ、小説を書きたいと思っていた私は、そのころある人を激しく憎んでいた。そのせいか、私の中で「おじさん」という人物が真っ先に具体的にイメージされた。」とあるんだけど、その憎しみの深さが伺える気がする)。
イヤな人である分、「ウォンはこの人との問題にどう決着をつけるのか?」という関心で読者を引っ張る力も強くなり、二人がカフェで話し合う場面も読み応えのあるシーンになっていた。
この小説の功労賞は間違いなくこのおじさんであろう。是非この人のイヤさを感じてもらいたい。
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