『ホットミルク』  デボラ・レヴィ 

『ホットミルク』

 デボラ・レヴィ  小澤身和子 訳


 二十五歳のソフィアは、原因不明の病で歩けない母、ローズの介護に人生のほとんどを捧げている。人類学者になる夢を諦めてカフェで働き、評判の医者、ゴメスに診てもらうために家を抵当に入れて南スペインの小さな町に滞在している間も、ローズのことを常に気遣う。自分の人生はこれでいいのかと思い悩むローズは、海辺でドイツからやってきたイングリッドや地元の学生のフアン、そしてどこか怪しいゴメスらとの出会いによって、自分の人生を苦しめているものと正面から向かい合うのだった。


 毒親と娘の話……と単純化してしまうとこの小説の良さが消えてしまう気がするが、とはいえ主人公のソフィアが置かれている状況がしんどいに尽きる。心気症で歩けない母親の介護で進学も諦めなければならなかっただけで既にもう辛い。その上母親が病む原因になった父親も大概で、娘とそう年齢の変わらない女性と結婚して新しい家庭を作ったはいいけど別れた妻の娘には無関心で、経済援助も無いという。ソフィアがこの父親一家と会うためにギリシャを訪れる所が、人間のエゴがよく出ていて特に面白かったように思う。

 若くして人生に絶望しかかっているソフィアはイングリッドに出会い、お互いに恋に落ちる。でも、愛する相手が出来たことにより母親との共依存関係を解消し、めでたしめでたしという塩梅には終わらない。ソフィアにかかっている「呪い」は重いし、イングリッドもイングリッドで問題を抱えている。依存先を母親から恋人に移行するのではなく、ソフィアが根本から自立するために呪いを解こうとしているのが医者のゴメスのわけだけど、一筋縄ではいかない所にドラマがある。


 言ってしまえば「母親と共依存状態に陥って心身共に疲れ果てた主人公が、様々な出会いを経て自立し成長する話」で纏められる小説なんだけど、ソフィアと母のローズのような状況に置かれている人達は少なくはないだろう。そういった人達のもとに届くといいな、と思う一冊だった。


 良い奴も嫌な奴も含めて登場人物に味があり、読んでいるうちに日差しや熱気で肌が焦げそうな気さえする南スペインの海辺の様子も良かった。暑い夏の日に海の近くで読むと雰囲気が出るかもしれない。

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