『サハリン島』 エドゥアルド・ヴェルキン
『サハリン島』
エドゥアルド・ヴェルキン
北川和美 毛利公美 訳
北朝鮮が放った核ミサイルがきっかけで起きた第三次世界大戦後の世界、地球は汚染され、先進国で唯一残った日本は大日本帝国を復活し鎖国体制を敷いていた。帝大の未来学者シレーニは辺境のサハリン島に潜入し調査を開始する。過酷な刑罰を与える刑務所と流刑囚、人間扱いされない下層階級の人々、おそろしい恐水病、死体の売買や人肉食すら珍しくないサハリンを、シレーニは銛族のアルチョークという男とともに旅をして様々な光景を目の当たりにする。
第三次世界大戦後を舞台にしたロシア発ポストアポカリプスSF小説。とにかく、樺太地獄めぐりというか、ポストアポカリプスも大概にしろと言いたくなるような酸鼻を極めたサハリンの在り方がページを捲るごとに展開されてゆく。帝政が復活しているから民族差別や人種差別は当たり前だし、死体を加工して得るエネルギーなんてものがあるし、大規模感染を起こしたら島ごと浄化するしかないような恐水症に汚染された地域もあるし、刑務所の刑罰は残酷だし、強くてめちゃくちゃなジジイが出てくるし、後半になるとゾンビパニック映画みたいになるし、大混乱に陥った島全体にミサイルまで落とされるという、イマジネーションの大盤振る舞いっぷりがすごい。
目をそむけたくなるような場面やどこか歪んでる人々ばかりでてきて読んでいて非常にクラクラするんだけど、書かれている内容の悲惨さや壮絶さに反してスルスルとわりと楽しく、時には笑いつつ読めてしまうのが不思議な小説でもあった。作者から日本の読者に向けたメッセージにあった「『サハリン島』はとても明るい小説というわけではない。でも過酷ながら楽天的な小説だ。」という言葉が全てを言いつくしていると思う。
本作の大部分は、なぜか小説として書かれて提出されたシレーニの樺太調査報告書でしめている。物事を正確に記さねばならない文書をどうして小説という形式で提出したのか。本作は芥川龍之介の「藪の中」が下敷きにされているとのことで、いろいろと考える余地もありそうではある。
本作の刊行は二〇二〇年で翻訳はコロナ禍の真っ最中でウクライナ侵攻の前だった。コロナが収まり次第作者は日本を訪れる予定だったそうだが、無事来日を果たせたのだろうか。
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