『ギデオン ──第九王家の騎士──』上・下  タムシン・ミュア

『ギデオン ──第九王家の騎士──』上・下

 タムシン・ミュア  月岡小穂 訳


 銀河帝国が出てくる小説(『帝国という名の記憶』)を読み終わった後、手に取ったのがこの小説である。


 あらすじによればこちらにも銀河帝国が登場するらしい。銀河帝国が出てくる上に、死霊術師まで登場するらしい。銀河帝国と同程度に死霊術師にも興味がないので、口の中にまだ銀河帝国の味が残ってるうちに似たようなテイストの本は読んでしまおう、とまあ、そんな風に考えたが故の選択だった。


〈不死の王〉と呼ばれる第一王家の王であり銀河帝国皇帝が即位して一万年、第二王家から第九王家による皇帝配下八王家から王位継承者の死霊術師とその主席騎士が第一王家の支配する惑星に召集された。理由は皇帝の側近・リクトルの後継者を決めるためだという。

 八王家の中でも辺境にある第九王家の剣士にして奉公人だったギデオンは、突如第九王家の王位継承者であるハロウハークから首席騎士に任じられ、第一王家の惑星まで供をするよう命じられる。子供のころから確執のある二人はお互いのことを罵りあいながら、リクトル選抜の場へ到着する。

 迷路のような古い館に集められた第二~第九王家の王位継承者兼死霊術師と首席騎士たちは、リングを与えられ謎解きを命じられる。この館の地下には様々な罠が仕掛けられた広大な空間が広がり、各王家は単独で、あるいは協力、牽制しあいながら謎の解明に動きだす。第九王家の二人も互いの目的のためにしぶしぶ協力して探索に向き合うが、しかし、地下で第六王家の王位継承者と騎士の亡骸が発見されてから事態は一変する。はたして二人の死は事故なのか殺人なのか。なぜ二人は死ななければならなかったのか。そして次々に王位継承者たちと騎士たちが命を落としてゆく中、明らかになる真相は……、といった趣のSFやミステリー、ゲーム要素も入ったファンタジー長編。


 銀河帝国や死霊術師が出てくる小説はあまり興味がわかないので普段読まない。ついでにいうとRPGが苦手なのでダンジョン探索への関心も薄いし、館に人が集められるところから始まるミステリー小説もはっきりいって不得意である。

 じゃあなんでこんな苦手要素で出来上がってるような小説読んでるんだよという話になるが、そりゃあまあ「確執ある女二人が目的のために協力し合う」っていう要素一点につきますやあね……。未知ジャンルの本を手に取るきっかけってそんなんばっかりですよ、私の場合は。


 そんなうわついた動機で読んでみた小説だったけど、こちらは大いに楽しんで読んだ。というのも、単純にキャラクター小説として大いに好みだったから。少なくとも主役の二人のキャラクターがしっかり立っていていい。


 主人公のギデオンはどこまでも脳筋な剣士で口が悪いし下ネタも言うし、わりと助平で美人の王位継承者や騎士がいればそっちばっかり気にしている。そんなギデオンが嫌々ながら支えているハロウハークは、高慢だし陰険だし賢いからこそ人を容易に信じず時には人を陥れることもやってのけるスケルトン使いの王女様である。

 そんな二人はガチで仲が悪い。序盤から中盤にかけては本当に仲が悪い。ギデオンは殺したいほどハロウハークを憎悪しているし、ハロウハークの方もそれだけ嫌われても仕方ないことを序盤からやってのけている。ページを捲ればお互いを嫌い合う女と女の罵り合いである。たまらん。


 そんな二人の関係がストーリーが進むごとに変化して、お互いになくてはならない唯一無二の関係になってゆく。そのため女二人が互いに殺意を向け合う殺伐百合としての妙味は少々損なわれるけれど、お互いがお互いにとってなくてはならない関係になるというバディ系の百合が好きなものとしてはそれはそれでたまらんものがあった。

 派手なラストバトルからの結末とエピローグも見事で、よいバトル百合だったと満足して読み終えることができた。

 ここで終わってもいいと思うんだけど、本作はここまでではなくシリーズもので続刊も出ているらしい。それなら是非とも続きも訳してほしいものである。


 あと、主人公二人についで好きなのはイアンシーという頭がよくて性格がめたくそにわるい王位継承者だった。性格が悪い女を単なる悪役や敵役ではないキャラクターとして書ける人には全幅の信頼を寄せてしまう。いいシリーズだよ、本当に。

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