『帝国という名の記憶』上・下  アーカディ・マーティーン

『帝国という名の記憶』上・下

 アーカディ・マーティーン  内田昌之 訳


 帝国である。既にタイトルで「これは帝国にまつわる話ですよ」と示されている。

 繰り返すけど帝国である。帝国にも色々あるけれど、この場合の帝国とは銀河帝国のことを指す。

 銀河帝国が出てくるのだから、人類が宇宙に進出するようなはるか未来でおきる壮大でハラハラするような冒険やドラマが語られているのだろう、と誰しもが想像つくかと思う。そして本書はそういう小説である。ジャンルでいうとスペースオペラになるらしい。


 はるか遠い未来、採鉱ステーションのルスエルは銀河を支配する大帝国テイクスカアランの中心惑星へ大使を派遣するよう要請される。新しい大使として任命されたマヒートは、ルスエルの科学の粋である神経インプラント・イマゴマシンを介して前任の大使イスカンダーの記憶と人格を移植して中心惑星シティへ降り立った。しかし本来ならマヒートへ大使としての必要かつ重要な情報を授ける筈のイスカンダーの人格は、何者かによって殺された自分の遺骸をみたショックで沈黙してしまう。ほとんど何もわからないまま、皇帝の後継者を巡るテロも頻発するなど治安が悪化しているシティで大使を勤めることになったマヒート。だが、帝国からの案内係シーグラスたちとともにイスカンダー殺害の謎を追うことになる。そしてそれは銀河帝国宮廷内での陰謀に大きく関わることを意味していた……という感じの謀略サスペンスの味わいもある小説でもあり、飽きさせないつくりになっている。

 実際、人格や記憶を移植するイマゴマシン(ルスエルの科学の粋で帝国にはない技術の結晶)の設定や、前任大使の殺害の真相、インプラントを介して他人の記憶や人格が自分の中にあるというSF小説的な部分に関しては楽しんで読んだ。


 本当に、つまらない小説では無かった。なかったんだけど……アレだ。よくよく考えたら私、銀河帝国が出てくるタイプの小説を好んで読む方ではなかったのだ……。銀河帝国皇帝の跡目争いが大変だ、なんとかしなきゃあ人類と敵対するエイリアンと戦争することになるぞって言われても「ふーん、それで?」ってなる方だった……。

 じゃあなんでこんな小説読んでるんだよって話になるけれど、「女性同士の恋愛があるよ」って紹介されていたっていう即物的な理由から興味を持ったんだった……。


 それではマヒートとシーグラスの関係はどうなのかというと、帝国文学オタクのマヒートと帝国の外側にいる野蛮人に興味津々なシーグラスは最初からわりと気があって、ノリノリで策略を巡らせている程度には仲良しなのだった。自立した社会人女性二人のシスターフッド兼恋愛というわけで非常に現代的であり、好きな方も多そうな関係ではある。けど個人的には物足りないというかなんというか……うーん。とりあえず、シーグラスの友人で二人になんのかんのと協力してくれるトウェブル・アゼイリア氏が可哀相すぎないか? とだけは言いたい。


 その他、訳文が合わなかったのか読むのに四苦八苦した箇所もあったりしたので、残念なことにnot for meな読書で終わってしまった感がある。


 フォローのようになるけれど、面白いことは面白い小説なので、銀河帝国が出てくる小説に抵抗感が無い方にはおすすめしたい。

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