『零號琴』上下 飛浩隆
『零號琴』上下 飛浩隆
惑星美褥の首都盤記では、假面劇で創成神話や各時代の歴史を再現する文化がある。盤記には巨大楽器、美玉鐘が配置されている。美玉鐘が五百年ぶりに再建されるのを記念して、善首都の住民が参加する假面劇が演じられようとしていた。
特殊楽器技芸士のセルジゥ・トロムボノクと相棒の少年シェリュバンは、大富豪パウル・フェアフーフェンの誘いで美褥を訪れたのだが、フェアフーフェンは二人の目の前で殺されたので遺産争いに巻き込まれたり、フェアフーフェンの娘で假面劇の脚本を担当するワンダは伝統のサーガに宇宙の女児に人気のある少女戦士コンテンツ、フリギアを混ぜようとしていたり、死者が生き返り子供たちがいない美褥の謎とその歴史が語られたり、美褥に生息する謎の生物、梦卑の謎が明かされたり、主人公のトロムボノクが癖のある爺さん連中に振り回されたり、美少年のシェリュバンは假面劇の主役であるなきむしのフリギアを演じることになったり、新聞記者がその様子を宇宙に報じたり、とにかく大変なことになるSF小説。
(自分なりにまとめようとしたものの、力尽きた。こんな途方もなく壮大な小説を、文庫本背表紙の限られたスペース内に収まる程度のあらすじにまとめられるなんて、ハヤカワ書房の編集者さんはすごいなあ)。
初めて読む飛浩隆さん。作中にプリキュアみたいなのが出てくるという評判を聞いていたので興味をもった。本当にプリキュアみたいなのが出てきたので驚いた。プリキュアみたいでもあったがまどマギみたいでもあった。
基本的に、宇宙を冒険しているおじさんと少年のコンビがわけあって立ち寄った惑星で騒動に巻き込まれる話である。そこに、古代の楽器やら惑星の秘密やら、死なない少女やら、敵か味方かわからない謎の女やら、アクの強い大富豪やら、くせ者の年寄連中やらが登場して活劇に彩りを添えている物語である、多分。少なくとも基本の筋としては間違ってないと思う。
「多分」と歯切れが悪くなってしまうのは、「すごいなあ、おもしろいなあ、すごいなあ」とひたすら読みながら圧倒されるだけの読書になったからである。大変面白かったことぐらいしか言葉にならんのである。
何が面白かったかくらいは言葉にしたかったものだけど、惑星全体の凄惨な歴史を住民総出で物語を語ることによって隠匿しようとしていたことや、最終回で痛ましいことになった少女戦士のフリギアを假面劇で救われる方向に書き直そうと目論むワンダの業に心をもっていかれたことくらいしか語れないのだった。どうにも最近、物語を語るということに関心がむきがちである(どうでもいいのだけど、フリギアのファンアートがみつからないかと検索かけてみたところ、古代のトルコにあった小国しかヒットしなかった。無念)。
文庫版の解説では日本SFの歴史と本作の関係が語られていたけれど、SFをたまに読む程度の人間にはよくわからず、「そういう読み方もあるんだ」と、ほーほーへーへーと言うだけで終わった。
読んだ本の感想文をつけるようになってから最も散漫な感想文になった自覚があるが、もう許して欲しい。面白かったことは保障するから。
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