『夜の都』 山吹静吽
『夜の都』 山吹静吽
一九二〇年代の初め、ライラ・フォーサイスは父と継母とともに日本を訪れる。ホテルに滞在中、他の客との間に起きた些細な諍いがきっかけで、敷地内にあった禁測地に足を踏み入れてしまう。その日の夜から夢を通じて異界に出入りし、クダンと名乗る存在から魔術の手ほどきを受ける。クダンは千年以上も前から「夜の都」の中で眠り続ける月の姫に仕えており、久々の弟子を得たことへの喜びを隠さないまま、自分の身に起きたことが把握できないライラに魔術を手ほどきする。
詳しい事情がわからないままクダンに見出されたライラは、地上に遺された亡者の魂を眠らせ異界に封じる使命を負わされていた。憤慨しても、ライラは次第に魔術に魅入られ、妖精の鱗粉の持つ強い依存効果に囚われてしまう。異界やクダンの虜になりかけたライラを救ったのは、ホテルの女主人のトキだった。トキも昔、クダンに魔術の手ほどきを受けたのだが、師匠とは袂を分かっていた。トキの荒療治によってライラは魔術や妖精の鱗粉との依存から一旦は回復する。
このまま現実に戻ろうとしたライラは自分を引き留めるクダンに別れを告げる。しかしその時、大地震が辺り一帯を襲うのだった。
異国の地で魔女修行を行うことになったとある少女が主役の幻想小説。KADOKWAが「魔法少女小説」として宣伝していたので読んでみた。魔法の力を授かった少女の物語なので魔法少女小説で差支えは無いと思うが、善とも悪とも言えない存在から魔法を習うあたりはプロイスラ―の『クラバート』みたいだし、正しい魔法の使い手である老婦人から実直な魔法を習うあたりは梨木果歩の『西の魔女が死んだ』等の魔女修行もの児童文学を思わせるものがある。つまりはダークファンタジーな児童文学ないしは少女小説ね……と合点しつつ読み進めていた所に起きる大地震(関東大震災だろう)に衝撃を受ける。
それ以降は思いもよらない展開になり、詳細は伏せるがライラがある決意をするラストには結構驚いた。この結末はホラーだと思って読むとゾッとするけれど、ファンタジーだと思うとなかなか清々しい。白とも黒とも言い切れない読み心地に魅力がある。
そもそもライラに魔術を手ほどきするクダンも、単純に善とも悪とも言い切れない存在である。詳細を告げずに弟子をとり、命を危険を晒すようなマネもするくせに、妙なところでは倫理観や誇り高さがある。そんな師の危険性を承知しながら、ライラは最後までクダンにある種の共感を寄せている。
クダンは超常の力を有していたが故に人々から疎まれていた存在で、ライラは頭がよくて進取の気質に富むがゆえに奇妙で可愛くない子として扱われていた存在である(そしてどちらも同性に惹かれていた)。いわばどちらもマジョリティからはみ出していた者たちで、であるからこそ繋がりあい、拒絶できないものが生じもしたのだろう。多分。
この終わり方だと、続編や同一世界のシリーズものが展開できそうだけど、そういう予定はあるのだろうか。できればそういったものも読んでみたい。
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