『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』 宮田珠己
『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』
宮田珠己
アジアの珍スポットや日本国内の巨大な大仏像など、不思議な場所に関する可笑しな紀行文で知られる著者による、のんきでユーモラスな幻想小説。
父親が書いた嘘とデタラメしかない旅行記が原因で、東の果てまで旅にでることになってしまった、アーサー・マンデヴィル。弟のエドガーと修道士のペトルスの二人とともに東へ東へと向かう道中で、羊の実をつける草やマンドゴラ、人間を魚に変える女戦士のアマゾン族に犬の頭をした犬頭人、姿を変えられた水の精、人喰いアリや美女のなる木などの奇妙な動植物に遭遇する。イヤイヤ旅に出て奇想天外な目に遭うという所が楽しい。ちぐはぐだった三人も旅の過程でなんだかんだ良き仲間になるあたりも、読んでいて和んだ。全体的にとぼけた『高丘親王航海記』みたいな小説である(著者も意識して書かれていたっぽい)。でこぼこトリオの珍道中という点では「宇宙船サジタリウス」っぽくもある。
途中で出てくる犬頭人のテオポンポスが実に良いヤツなので全力で推したい。犬頭人社会では気前のよさが美徳とされるのでとにかく三人に対して気前がよく、自分たちが住んでる世界より外を見てみたいという夢を抱えているテオポンポス。彼のことを知るだけでもこの本を読む価値があると言い切ってもよい。
読み手の感情を揺さぶるストーリーに疲れた時などにおすすめしたい、そんな一冊だった。
・あらすじ……
コケやシダを愛好する内向的な男、アーサー・マンデヴィルは、ある日突然ローマ教皇庁に呼び出される。おそるおそる向かったローマでは教皇ウルバヌス六世直々に、東の彼方にある祭祀ヨーハンネスことプレスター・ジョンが収めるキリスト教国へ向かい同盟を結ぶように申しつけられる。イングランドの片隅でひっそり穏やかに暮らしているアーサーにそんな無茶が命じられたのは、アーサーの父であるジョン・マンデヴィルが、東方に関する伝聞や類書からの剽窃に空想や妄想を交えて語ったイカモノ旅行記『東方旅行記』の著者だったためである。信憑性が疑われて久しい『東方旅行記』を遅れて読んだウルバヌス六世は、あろうことかこの本の内容を鵜呑みにしてしまい、悩みの種であるサラセン人を倒す為に東の果てにあるというプレスター・ジョンに軍を出してもらおうと思いついたのだった。
父の本にはデタラメばかり書かれていること、そもそも父親がイングランドの外に出ていないことを熟知しているアーサーだが、相手が相手であるがゆえに真実を告げられない。アーサーの弟・エドガーはなぜかこの旅に大乗り気だし、アーサー達とともに東への旅に出ることになった修道士のペトルㇲは信仰心が強すぎて使命に燃えている。旅なんかに出たくはなく、イングランドの館でコケとシダを愛でていたいだけのアーサーの理解者は一人もいない。かくして、嘘の旅行記をもとに東の果てを目指すという悪い冗談のような旅に出るハメになってしまうのだった。
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