『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』 小川一水
『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』
小川一水
宇宙漁業百合SF小説の第二巻である。
宇宙漁業とはなんぞ? となるが、その辺は一巻を読まれるとよい。私は一巻を読んでみても「そういう産業がある宇宙なんだなぁ」くらいしか理解できなかったが、ハードSFをハードSFたらしめているパート(テクノロジーとか科学情報を解説しつつそれらを元にしたセンスオブワンダー具合を語っているパートのこと)(でも多分本作はハードSFではなくスペースオペラなんじゃないかな? ていうかそういうジャンル内のさらに細かなジャンル呼称に意味があるのかな? わからなくなってきたので話を本筋に戻す)に差し掛かると強制的に頭が寝てしまうモードにきりかわってしまう者であるが、それでも軽妙な文章と楽しいストーリーを読んでいればなんとなくイメージできる仕様になっているのがありがたい。
長い間培われた産業や文化形態によって、家父長制が維持されて氏族社会で男女がともに仕事をして子孫を増やすの良しとする遠い未来の宇宙世界において、主人公の女と女はともに異端児である。
漁の現場で網を打つ「女の仕事」を受け持つ方は多大なイマジネーションを持つがゆえに型にはまった仕事をしようとすると却って失敗する、船を操縦する「男の仕事」を受け持つ方は女だからという理由で自分の夢や望みは否定されている。そんな二人が出会って共にお互いをパートナーだと見定めて大仕事をするのが一巻の内容。
二巻は一巻の続きから始まる。家父長制の権化のような保守的氏族の権力者が、自分たちだけの道を歩もうと決意した二人にでかい横やりを入れてくるところから始まる。
物理的に引きはがされ、それぞれ属していたコミュニティに戻されたものの、唯一無二のパートナーに出会ってしまった二人がそこで大人しく出来るわけがなく、ともに行動を起こす。協力者やら昔の女やらを巻き込みつつも、二人が自分たちの在り方への筋を通そうとする。
自分たちが自分たちであるためにどうしても突破しなければならない最大の壁こそ今回の黒幕で、偽史を根拠に発展させた古い思想で社会を縛り付けようとする氏族内の権力者の長である。黒幕は自分の属する氏族だけではなく、社会全体を自分の思想のもとに統制しようと企んでいた為、とにかく大きな騒動がおきる──と、まあ、二巻はざっくりこのような内容になっている。
この今回の黒幕が、本来の歴史よりも輝かしい偽史を尊び、その教えを根拠に社会を縛ろうとするところがなんともかんとも不穏で実にイヤな存在である。現実社会に存在するアレだとかソレだとか、モデルになった団体やその思想がもたらした騒動や被害などは現代に生きているとどうしても耳に入ってくる。そういった「壁」が打ち負かされる様はシンプルに爽快なんだが、フィクションほど上手くいかない現実を意識せざるを得ないものもあってほんの少しスン、となったりもする。とはいえ、悪いヤツが最後にギャフンと言ってくれるウルトラハッピーさが無くてなんのためのフィクションか! という気持の方が強い。
というわけで、「ああ面白かった」で気持ちよく読み終わった一冊となった。フィクションを現実に反映させるのは慎重になるべきである(ピュアなノリでフィクションを礼賛していると偽史を尊ぶ人たちのような害悪集団とあんまり変わらないことになるので)という主義なのではあるが、二人の女の生き様が誰かにポジティブな影響を与えてていたらいいな……と、そんな呑気なことを思った。
しかし、百合ジャンルには不可欠だと勝手に思っている「昔の女」であるところのメイカさんにはもうちょっと活躍してほしかったな……。そこだけが惜しい。
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