『声をあげます』 チョン・セラン 斉藤真理子 訳
『声をあげます』
チョン・セラン 斉藤真理子 訳
以前読んだ同作者の『保健室のアン・ウニョン先生』が好きだったので読んでみた一冊。
ここ数年で刊行点数も爆発的に増えた気がする韓国の小説。私はパク・ミンギュから読むようになったこともあって、SFやマジックリアリズムの手法を用いた文芸寄りの小説が好きである。──まあ、作者の国籍や出自問わずそういう小説が好きなだけとも言えるけど。
本書はまさに自分の好みに合致した中短篇集で、SFだけどハードすぎない、ちょっと(語られる内容によっては文明が滅びる程度に大規模な)不思議なことが起きている世界での人間の暮らしや感情が書かれている。
宇宙のどこかにある地球を中途半端に模したテーマパークの管理人になってしまった人や、かつてのサークルメンバー達に好きだった人を不老不死にさせられてしまった元紅一点、人類のほとんどがゾンビ化した世界で生き残ってしまったアーチェリー強化選手など、不思議でいて現代社会の深刻な問題を土台にした物語が語られる。この作者の場合、毒っ気のある展開が続いても結末はポジティブなので、しんどい時に読むとちょうどいいように思う。
表題作は、意図したわけでなくただ普通に生活しているだけで人類や社会に深刻な影響を与えてしまう人々「怪物」を集めた収容所を舞台にした中篇。
主人公は、声に人々を殺人衝動を呼び起こす要素があるという理由で収容された教師で、他の収容者(人間の他に死体を食べるグールも一人もいる)と共に暮らすことになる。出所の条件は声帯を取り除くことだけ。ところがこの収容所生活は外の社会と接触できない他はすこぶる快適で、所長もいい人だし職員から虐待を受けるわけでもない。これまでより遥かにいい生活ができるので、このままでもいいかという気持ちに傾いてきたところへ新たな「怪物」が入所して──という展開になる。タイトルがダブルミーニングになっていることに、読み終わってから気づいた。
他にも、人も建物もなんでも食い尽くす巨大ミミズに滅亡寸前までに追いやられた人類がそこから再生する、進撃の大ミミズな「リセット」が面白かった。
あと、指の一本だけがタイムラインの色々な時代の面倒な場所にとんでいってしまう難儀な体質の女の子と走り高跳びの選手の不思議な冒険の数々を語った掌編、「ミッシング・フィンガーとジャンピング・ガールの大冒険」が大変好みで良かったです……。こういうのを山ほど読みたい。
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