『武装メイドに魔法は要らない』①② 忍野佐輔

『武装メイドに魔法は要らない』①② 

 忍野佐輔


 内乱中の日本で激しい戦闘にあけくれていた民兵の女子が致命傷を負う。漫画読みだった女は、今際の際に愛読していた漫画に登場する憧れのキャラクターのことを思う。できることならば、仕える価値のある主人のために全力で戦う戦闘武装メイドになりたかった、憧れの婦長様のような……という所で意識を失ったら、何故か異世界にいました。

 父や兄を戦場で亡くした悲しみを癒す間もない弱小貴族の娘、なんの後ろ盾も無い彼女に世間は厳しく、容赦なく財産や領地を奪い取る。無情な時勢を恨むよりも領民の平和や幸福のために身を粉にして働いてきたが、ついには貴族としての立場さえ奪われそうになる。絶体絶命の事態に、貴族の娘は父が遺した秘宝に手をつける。その結果、異世界から召喚されたのはガラと口が悪くて武装戦闘メイドなるものに憧れている、戦場慣れした女でした。


 そんな出だしから始まる、ファンタジーバトル百合ライトノベル。最近コミカライズが決定したらしい。

 四月からは別レーベルのファンタジーバトル百合ラノベの「処刑少女」がアニメ化されることだし、ラノベ業界的にはこの次に来るかもしれないジャンルの一つとしてみなされているのだろうか。もしそうなら、バトル要素と非現実要素のある変な百合を書いてるものとしては嬉しい話である(転生要素のあるハイファンタジーは実のところさほど得意なジャンルではないので、できれば異能バトル百合か伝奇百合も盛り上がってほしいところ)。



 さて、本作の一巻では、今にも滅びてしまいそうな小国とその領地を狙う有力貴族という戦力差がありまくる戦争を背景に、次元を超えて展開されるガールミーツガールが語られる。

 自ら庭を開墾して農業に邁進するレベルで窮乏しているものの、領民の幸せと平和を願い、その為ならば全力を尽くす、頑固な理想主義者で誇り高い貴族の娘に、小さい頃から兵隊として育てられ世界の醜さを目の当たりにしてきた女が「この女こそ自分が欲していた存在である」と惚れぬいて、持てうる限りの力を振るうという内容である。ハマらないわけがないのだった。しかも転生者のマリナさんは一人称が「オレ」だし。基本的にガラが悪く、戦場慣れしていて経験豊富で機転が利く賢い人って所もポイント高い(ガサツで戦闘力のあるオレっ子が好きなんですよ、個人的に)。

 貴族の娘のエリザさんも、偽善でもなんでも私が領民を幸福にしたいからするのだ! 自分自身の欲の為に行動しているのだ! という自覚がある、絶対悪堕ちしない系の高潔お姫様なところも非常にポイントが高い。

 主人と定めた相手になら全てを捧げてもいい女と、そんな女の心意気に応える度量のある専守防衛主義の女による、バディやシスターフッドみの強いバトル百合小説である。

 好きな要素しかないので嫌いになりようがなく、非常に楽しんで読んだ。


 転生時に得た身体能力と「イメージできるものならどんな銃火器や兵器でも召喚できる」という能力、それに加えて戦場で地獄を見てきた経験値などが合わさったマリナさんの戦闘力は非常に高い。

 転生先の世界にとっては異世界(治安が最悪なことになっている、ちょっとだけ未来なこちらの世界。HUNTER×HUNTERらしき漫画が完結してるらしい)の銃火器の類など、よくあるファンタジー異世界である転生先の住民にとっては未知なる道具でもある。それが二人にとってのアドバンテージでもあるけれど、敵対陣営にはえげつない攻撃魔法を使える傲慢な騎士や魔導士がいるので簡単に無双を決めさせてくれない。

 そもそも、両者の間に国力や軍事力に差がありすぎるので、わけのわからん妙な能力を使う女が一人増えた所でエリザさん陣営が圧倒的不利なところは変わらない。それでも、戦わないことには未来はない。

 そんな絶望的状況からスタートしているので、ストーリーに一定の緊張感があるところも良かったと思う。

 なお、派手に血飛沫は舞うし死亡率は高いけども、二人がお互いを強く信頼しあっていることやらエリザさんの高潔さが終始安定しているところから読み心地は比較的爽やかである。殺伐百合というよりバトル百合ですね。


 そんなこんなで綺麗にまとまった一巻に続く二巻はというと、この世界での最高権力者やうごめく陰謀、マリナさん以外の転生者やら、新キャラ投入によって増量される百合成分(殺伐要素アリ)、なんだかすごい武器を継承するエリザさん──と、大風呂敷を拡げた上で過去のトラウマを刺激する女子と女子ドラマを織り込んだうえで綺麗にまとめられている。

 とはいえ今後の展開が示唆されているのに、あとがきによれば続刊があるかないかはこの巻の売り上げにかかっているとのこと。読んでいてコケそうになった。小耳には挟んでいたけれど、厳しい業界ですね……。


 もうちょっとお付き合いしたいシリーズなので、これを読んでちょっとでも興味湧いたら手にとってね、とお薦めしておくことにします……。

 今のところまだ二巻しか出てないよ、文庫本二冊だよ、集めやすいしお財布にも比較的優しいよ。



 ──あ、男性がでてくるけど、ナウシカのクロトワみたいなポジションのおじさん、抜け目ない、もしくは素朴な一般市民、傲慢な騎士、根はいいやつみたいだけど要らんことしか言わない元転生者(元カノとの間にトラウマがある上に激務を抱えていてで恋愛どころではない)、イケ老人、裸の王様など、恋愛色の少なそうなキャラクターしか出てきません。

 百合に男を出すな! という方は参考にしてやってください(私自身はというと、女子と女子の物語だと銘打っておいて結局異性愛ラブコメ的な結末になるのでもない限り、男性が登場する・しないはそれほど気にならない方です。女子と女子の関係が濃ければそれでヨシな派です。判定ゆるめなんです)。


※あらすじは省略しました。

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