『ガンナー・ガールズ・イグニッション Case1.フェイタル・インシデント』  山口 隼

『ガンナー・ガールズ・イグニッション Case1.フェイタル・インシデント』 

 山口 隼


 治安が悪化している近未来の日本が舞台。

 運び屋として気ままな自由業をしている女が主人公。

 しかし、とある仕事の最中で事件に巻き込まれ、特殊な犯罪を専門に扱う諜報機関のメンバーになる。

 納得しきれないままチームのメンバーとして事件を追う中、好きな人間や嫌いな人間ができたり、新しい人間関係を構築する反面、古い付き合いを精算したり(精算させられたり?)、そうこうして事件の黒幕と自分自身の出生の謎が明かされる。

 そして対決する。


 という鉄板のストーリーに、サイバーパンクなガジェットやさまざまな文化の吹き溜まりのようなダウンタウン描写、一癖も二癖もあるキャラクターに、ガンアクションとESPなど、いつの世でも変わらず美味いものがきちんと詰められている。

 その上百合である。女癖がちょっと悪いのが玉に瑕なカッコいい大人の女に小娘が惚れこんでしまうという、恋愛要素の濃い百合である。惚れた女の女癖が悪いのだから当然ライバル的な女もいるわけで、そいつと急拵えのバディを組む羽目にもなったりする。それが不味いわけがないので当然美味しい。


 ストーリーは主人公の女の一人称で、伝法な口調のトークで進められる。これも密度が濃くてよい。

 自分の生き方は自分で決める、それを誰かに預けることへ抵抗する生き方を主人公が選ぶ所を読むのも嬉しくなる。


 文庫本一冊でエンターテイメントをやるというのはこういうことだ! という風格すらあるお手本のような小説で大変満足した一冊であった

 百合でサイバーパンクでガンアクションに超能力や人造の義肢もついてくるという幕の内弁当っぽい楽しさがまずいい。こういうのはいくらあってもいい。

 なのに続刊が出なさそうなのが……。世の中世知辛い(そんなこと言うくらいなら一年近く積んでないで早く読んで感想あげるとかできただろうに、やることが遅い! と自分で自分に言っておくので許してください)。



 キャラクターも魅力的だった本作ですが、百合では主人公の女の恋敵ポジションにつく女(性格も面倒くさい奴が多い)が大体好みなので岬今日子さんが特にお気に入りでした。女衒のエイトも大変好みのキャラクターだったので、途中退場が惜しまれました。

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