『処刑少女の生きる道』4〜6 佐藤真登
『処刑少女の生きる道』4〜6
佐藤真登
自然現象なのか禁忌に触れた人間の仕業なのかか、頻繁に現代日本人が転移するそんな異世界がある。転移の際に身に着けた特殊な力を暴走させては何度も人類や文明を滅してきた過去があり、支配者層である聖職者たちは日本人を危険な存在と見做していた。そんな日本人を発見次第ただちに処分する役職に特化した聖職者も存在し、彼女らはその職種から処刑人と呼ばれていた。優秀な処刑人であるメノウは日本人の少女アカリを殺す任務を与えられたが、アカリは時を巻き戻す能力があるので通常の方法では殺せない。その上アカリは初めからメノウに好意全開で懐いてくる。とにかくアカリがこの世界に対する災いになる前に殺したいメノウは、アカリを殺せるかもしれない古代遺物を求めて、かつて日本人によって全土が塩にされた大陸を目指す。その道中でなんやかんやトラブルに巻き込まれている過程で、アカリが実は何度も日本に来てから塩の大陸まで旅する期間をループしていたり、ループの理由はメノウが塩の大陸で処刑人の師匠に殺される運命を回避するためだと明かされたり、メノウを一途に慕うがアカリを筆頭とする他の人間にはきわめて冷淡かつ凶暴な後輩のモモが敵をぶち殺そうとしたり、露出度と戦闘力の高い豪快なお姫様が暴れたり、モモを気に入ったお姫さまとウザがるモモのラブコメを挟んだり、独特な能力バトルを挟んだり、ボスっぽい元日本人のバケモノが各所で暴れてるっぽいぞ……てな話を進めていた三巻のラストで、メノウには忠実なモモが大嫌いな筈のアカリを連れて出奔してしまう。
で、四巻はモモとアカリがギスギスケンカしながら山奥の温泉地で暴れたり、メノウがお姫様と一緒に追跡する過程でなぜか男装させらたりする一コメディを展開した後に、四巻終盤から五巻、六巻かけてこのシリーズ一つ目の山場が語られた後に話に一区切りがつき、新章への交通整理と地ならしをしてから次巻へ続く。
来年冬にアニメ化が決まっているファンタジー百合ラノベ。
三巻までは、「なぜ現代日本人ばかり異世界へ転生・転移するのか」というなろう系を逆手にとった世界設定や導力と呼ばれている魔法めいたテクノロジーなど、このシリーズ独特な部分がどうにも飲みこめず、心から楽しんでいるとは実は言い難かった。でもまあ三巻に登場した陰険陰湿で嫉妬深く、事情があって片腕が変形する義手になった女子のサハラさんがタイプだからもうちょっとつきあうか~。でもこの作家さんのコメディパートとはどうも相性が悪いんだよなぁ~、設定の解説パートになると文章がモタつきがちになるうえ分かりにくくなるしなぁ、こっちの頭が悪いだけかもしれないけど……というナメた態度で読み進めていた所、後半で「お?」となる。
そのまま読み進めた五巻で、この世界の謎が解明したり、現状のラスボスの正体が明かされたり、メノウと強くて因業な師匠(女)やらモモとサハラさんの殺し合いバトルやら、好みの展開が続いたので本腰を入れる。
で、六巻でこの世界の謎とラスボスの目的、ラスボスとメノウとアカリというメインの三角関係が成立する過程で師匠と弟子の一騎打ちが繰り広げられたり、それまでのパーティーを一旦解散してそれまでの敵を交えつつチームを組みなおして新しい旅に出るという所までが語られた六巻を読み終えた頃にはすっかり満足していたのだった。今まで文句言ってごめんよ。
twitterでも散々言っている通り、私が思うこのシリーズ最大の長所はというと「お前なんか嫌い!」とか「ウザいお前なんか死んじゃえばいいのに」という関係で繋がっている女子と女子の数がかなり多いということである。純粋な好意や友情で繋がった関係の二人もいるにはいるがかなり少ない。「あなたが好き」の矢印が一方向のみな関係が多い分、必然的に「お前なんか消えて無くなれ」で結びつく関係が増える。そういう二人が利害の為に手を結んだり、「いい機会だからこの機会に消してくれる」でバトルしたりする。たまらん。こたえられん。女子と女子のいがみ合いの原因が男ではなくて女、なおかつどちらも性格の悪さをむき出しにしているところが最高である。特に五、六巻に関しては欲していた物語の例を明示してもらったようなありがたさすら感じた。
とはいってもそれらの一つ一つは別に目新しいものではなく、過去に接した作品に雛型をみいだせるものなんだけれど、それらを効果的な位置にちゃんと配置してもらえたらやっぱり嬉しいものである。しかも脇役の人間関係も込みだからとにかく数多いし。豪華だし。
一応バトル百合なんて書いているので、こういう作品が増えてくれると素直にありがたいです。
それにしても、殺伐百合とまではいかないけども始終いがみ合う女子が好きって癖をここまで理解してもらえたのは初めてのような気がする……(ごく普通に仲良しの大親友や相思相愛、息の合うバディな二人ももちろん好きなんですが、いがみ合う女子同士でなければ摂れない栄養もあるんですよ)。
なお、よくわからなかったこの世界と能力の設定に関しては、ファイナルファンタジーⅦに出てきた魔晄に日本人の記憶や知識が溶け込んでいるようなものだと雑に考えればなんとなく理解できました。その魔晄に溶けている知識や記憶を検索できる人物の能力行使する姿は仮面ライダーWのフィリップ君みたいだったし、ファイナルファンタジーⅦwithフィリップ君だと解釈すればいいのかもしれない……違ったらごめん。
※ネタバレになるかもしれないので最後に追加しときます…
天涯孤独な女児に戦闘技術を仕込む因業な大人の女とか、そんな師匠と弟子の行く末を見届ける話だとか、遺された方が逝った方の形見のタバコを吸うだとか、そう言うのが好きならとりあえず六巻までは読むと良いかもです。
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