『僕の愛したジークフリーデ』第一部、第二部 松山剛
『僕の愛したジークフリーデ』第一部、第二部
松山剛
魔力の効かない素材の発見により大隆盛した魔法が時代遅れの技術になった世界、時勢に反して魔術師になったオット─・ハウプトマンは旅の途中に山賊に襲われていた所を眼帯をした少女に助けられる。盲目であるにもかかわらず卓抜した剣技で賊を倒した少女は、かつては豊かで幸福だった国リーベルヴァイン王国の王女に仕える騎士だった。王女ロザリンデと騎士の少女ジークフリーデ・クリューガーはかつては仲の良い姉妹のような絆で結ばれていた。
そんなことは知らないまま、亡き師匠が宮廷魔術師を務めていたリーベルヴァインに訪れたオットーは、目的地が噂とは大いに様子が異なることに気付く。豊かで幸福な筈の国は、先王が崩御して娘の王女が即位したとたんに大粛清が行われ、女王は些細な罪で老若男女を処刑する暴君になり果てていた──。
電撃文庫のファンタジー百合ラノベ。今の所全二巻。
かつては愛らしく聡明で誰からも慕われていた王女のロザリンデが、どうして臣下や国民を処刑しまくる暴君に変貌したのか? かつては王女つきの騎士で技量も人格も讃えられた騎士のジークフリーデが、人格の変わり果てた王女に両目を切り裂かれ反逆者扱いされてもロザリンデに忠誠を誓い続けるのは何故か? 児童保護施設で出会った記憶の無い少女は何者か? といった謎を縦軸にして、旅の途中で国を揺るがす事案に巻き込まれた格好になるメガネで僕っ子でオタク気質のオットーを語り手に、ジークフリーデに執着する後輩の少女騎士イザベラとか、オットーの師匠とロザリンデ母の過去の挿話だの、女子と女子の感情と関係のこじれなどを交えて物語は進み、痛ましく悲しい場面が繰り広げられつつも最終的にはめでたしめでたしで閉じられる、非常に手堅いというか、ソツがないというか、ちょうどいい塩梅だというか、そんな読み心地で読了する。文章も読みやすく、キャリアの長い作家さん(らしい。巻末の著書一覧をみたら沢山の本を出されていた)腕前を感じた。
先だって、電撃文庫で刊行予定のノベライズを火元に百合界隈が派手に炎上していたのが記憶に新しいが、「百合というものに興味が出てきたが、ラノベだと一体何を読めばいいのやら?」という人にはこちらの方が良いんじゃないかと思う。全二巻というボリュームも良いし、女子と女子の関係性もしっかり描かれているけれど、血なまぐさいバトルファンタジー部分が間口を広げていると思うので…。
とりあえず、訳あって追われる身になったやたら戦闘力のある先輩女子と、「どうしてあなたは私を見てくれない!」で勝負を挑んでくる気と鼻っ柱の強い後輩女子の関係はいいものだな。女子と女子がメインになるお話でこういう関係を一組放り込んでおくとよいダシが出て物語が豊かになるな、と思いました。
※補足……
これを書いたのは先月(二〇二〇年九月)中ごろですが、今月もまた電撃文庫の百合絡みで数件の炎上が起きました……。
正直「〇〇さんのやつで憤る気持ちもは分からないでもないけれど、作者が書きたかったものを頭ごなしに否定することはやっぱ嫌だ。あと、新人賞の方は読んでから怒っても遅くないし、あらすじで合わないと思ったらその段階でスルーするしかないのでは? それにしても編集部にも不手際が多いな……」と思う他ないです。
ともあれ、立て続けに燃えた電撃文庫の百合ラノベの中で読んだものの内(ちなみに女子校で可愛い女子と女子がイチャイチャするガルコメ路線の百合はそれほど好みではないこともあって読んでない)で、入門編に相応しいのはこちらじゃないか? という気持ちに変化はありません。
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