『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』  アマル・エル・モフタール&  マックス・グラッドストーン


『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』

 アマル・エル・モフタール&

 マックス・グラッドストーン

 山田和子 訳



 自分たちに有利な世界を作り出すため、《エージェンシー》と《ガーデン》という二大勢力がさまざまな時代や平行世界を舞台に争いを続けていた。巨大帝国が崩壊した現場で《エージェンシー》の工作員レッドは《ガーデン》の工作員ブルーからの手紙を発見する。それをきっかけに二人の文通が始まり、行く先々の時代や平行世界でメッセージをやりとりするようになる。やがてお互いを好敵手と見るようになったレッドとブルーはしだいにそれ以上の絆を結んでゆくことになる。しかし、それぞれの組織が二人の行動をいつまでも好きにさせているはずもなく……。



 レッドかブルーのうちどちらかが、遠い未来の大帝国やアトランティス、モンゴル軍の野営地、19世紀イギリスから派生したような平行世界で様々な工作活動を行っている所に色んな形態をした手紙が届けられる。章の後半で手紙の内容が明かされる。章が変わると先の章での手紙の送り主が別の世界で工作活動をしている場面になり、そして相手から手紙が届けられる……その繰り返しで出来た小説。さまざまな世界をレッドとブルーが通り過ぎ、二人の手紙の内容を読むうちに、二人の関係の変化を読み取り、終盤でタイトルの「あななたたち」は誰なのか、時間戦争に勝つのは誰なのかが判るしくみになっている(評判にたがわぬ百合小説だった点を踏まえると、思いっきりネタバレしている気がした。すみません)。



 率直に言って、好き~! こういうの好き~! の一言につきる小説でした。めっちゃ好き~、くらいしか言うことがない。

 百合であるからというだけでなく、さまざまな平行世界を自在に行き来する工作員という設定が好きだし、そこで描かれる様々な世界の光景がいいし、レッドもブルーもアトランティスに来るのはうんざりするといった記述もいちいちツボだし、様々なかたちで二人の元に届けられる手紙もよい。どちらかによる工作活動と手紙→もう一方による工作活動と手紙→……という構成で語られるストーリーもよい。本当に好きなもののみで出来ている小説だった。好きが過ぎて、構想中だか執筆中だかに「スティーブン・ユニバース」のテーマソングを歌うような人は無限に信用できるな……てなことを思っていた。あのアニメは素晴らしい作品ですね。



 ところで私は読みながら「フリップ・フラッパーズ」を連想してました。二人が色んな世界へ赴き潜入している光景を想像しながら、「ピュアイリュージョンだ……」となっておりましたよ。あのアニメも素晴らしいですね。



(……思うに様々な平行世界を行ったり来たりする作品が単純に好きなんですよね……、自分でも書いたくらいですし)

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