『マイ・シスター、シリアルキラー』 オインカン・ブレイスウェイト

『マイ・シスター、シリアルキラー』

 オインカン・ブレイスウェイト

 粟飯原史子訳


 ナイジェリアの大都市ラゴスで暮らす看護師のコレデは母と妹と、名士だった父の遺した家で暮らしている。真面目で几帳面で有能な看護師だが容姿には恵まれなかったコレデとは対照的に、妹のアロヨワは誰もが目を見張る美人。インスタの自撮りを介して自作のドレスを売り込むことを一応仕事にしているものの、裕福な既婚者の愛人になって起業の費用を出させるのも平気な性格。しかも今までつき合った彼氏を殺していた。その都度コレデは泣きつかれて死体の隠匿を手伝う羽目になる。その都度コレデはそのストレスを職場の病院で長らく昏睡状態にいる患者にだけ語り続けていた。

 母親は美しいアロヨワばかりを可愛がり同僚たちとも友好的な関係を結べない孤独なコレデだが、職場にいる魅力的な青年医師のタデに恋をし彼とだけは打ち解けて喋ることができた。しかし、職場にやってきたアロヨワを一目見た途端、タデはあっさり妹に恋をしてしまう。

 おりしもアロヨワに泣きつかれて三人目の彼氏フェミの死体を片付けてすぐのこと。人騒がせな妹のせいで、死体の発見や警察や遺族からの疑いの眼差し、折りの合わない母親やうるさい親戚などからのストレスでいっぱいなコレデに、好きな人を奪われた哀しみにやりたい放題の妹への嫉妬までが加わる。そのことを意識のない患者に語り続けることで平穏を保っていたコレデなのに、よりにもよって何年も昏睡状態だった彼が目覚めてしまう。しかも自分が眠っていた頃に見聞きしていたことの記憶があるという。よもや彼が目覚めることはないと思い込んでいたコレデは、アロヨワによるフェミの殺人と死体の隠匿まで全てを語っていた──。



 不美人な姉と美しい妹という、どこかの有名な神話を思わせる姉妹を中心としたミステリー。父親を亡くしたとはいえ、お手伝いをおける程度には裕福なナイジェリアの一家族の過去が物語に大きく関わっていたりする。

 不美人な姉が密かに恋していた男は美しい妹に心を奪われてしまい、妹の窮地に何度も巻き込まれていた姉は悲しみ嫉妬する。しかし姉は、いつまで経っても短絡的で粗忽な妹が犯した殺人の隠匿をてつだってしまう。それは何故か、というのが本作の謎ということになるのでしょうか。


 謎のヒントは、外面は良く名士として尊敬を集めていても家庭内では妻にも娘にも一欠片の愛情もなく暴力をふるった姉妹の父親の死にあるでしょう。


 愛人を作った夫を詰ることも許されないほど家父長制が幅を利かせている社会、そんな社会に生まれ落ちた美しい妹、時に妹にうんざりし嫉妬をすることもあるのに頼られればどうしても妹を助けねばいられなくなる姉…という関係からとある物語を想像できる人もいるのじゃないかと。……あんまり語るとネタバレになるのでこの辺で。ほぼしてるも同然なのですが。


 ミステリーとしてどうなのかはわかりませんが、アンチ家父長制とかシスターフッドといった言葉に反応するタイプの人は読むといいです。


 …とまあ、現代ナイジェリア社会の闇なども扱ってる物語ですが、話の通じない母親や自分のことしか考えられない浅薄な妹に対して頭の痛いものを感じている聡明な姉の描写が、ジェーン・オースティンの小説を思わせるものがあって楽しいです。全体的にコミカルで陰惨すぎないのも良さだと思われます。

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