#2 懐かしいあの味

「いらっしゃ……あ、おはようございますぅー。ちゃんと来くれたんすねぇ」

 そう言いながら早速お茶を要求され冷蔵庫を開ける。

 ポットが三つ……

「ラベル貼ってあります。ジャスミン茶にしてください」

 はいはい、と自分の分は氷を多めに持っていき、椅子が欲しいと言うと、「そこの机で構いませんよぉー?」と昨日と同じ、だるそうな声。

 食に関してはこだわりが強いのに、普段はこうなのか……

 そんなことを考えながら一口ジャスミン茶を飲む。

「美味しいでしょう?」

「まさか、お茶っ葉詰みからしたとか言うんじゃ無いだろうな」

「ざんねーん、近くのスーパーの特売品です。でもですね、淹れ方によっては全然味が違うんですよぉ。何度も試してその味になりました」

「そ、そうなのか……」

 どの部分をこだわっているのか分からなくなってきた……

 今日っけで辞めるって言いに来たのに、ちょっとこの、死神に好奇心が湧いてきたぞ!

「そうそう。悠一君、君、昨日忘れ物したでしょう? そこの箱に悠一君コーナー作りましたから好きに使ってください」

「ティッシュの箱じゃねーかよ! しかも、あの変な警棒とか要らんわ!!!」

「朝からハサミで切って、マスキングテープで周りを綺麗に貼った力作なのにですかー?」

 何をやってるんだコイツは!

 だがよく見ると、持ち運びに便利な様に取ってもつけてあり、何気に水玉模様でかわい……いけないだろう!

「その警棒ですけどねぇ、小さくなりますからポケットに入ります。常に持っていてください。起こるか分かりませんからねぇ」

「物騒なこと言うな」

「怖い怖い。でも……」

 パチンと死神……アギルが指を鳴らすと、警棒らしき……いや、もう警棒でいいだろう物が後ろのポケットに。

 満足そうな顔をしながら、「さて、今日のお昼を取りに行きましょうか」と席を立つ。


 一冊の本を扇子で叩くと、また引っ張られる感覚がして、着いた場所は草原。

 メェー!とヤギの声が聞こえ、そのヤギを追いかけているのは……

「おい、もしかしてここって」

「はいー。アルプスです。まずはヤギの乳絞りをします。ほら、こっちこっち」

 ついて行くとヤギ小屋。

 どこから出したのか、手袋と瓶。

「はい、搾って下さい。優しくですよー、そーっと、そーっと」

「自分でやれよ!」

「大丈夫です。危険はありませんから」

 何とか瓶いっぱいに絞れたところで、蓋をしてアギルに渡すと、今度は水を汲みに行くと言う。



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