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「君、うちで働きません?」
「嫌だ」
「そんなこと言わずに。そうですねぇ、昼と夜の食事は保証しましょう!」
「普通保証するならバイト代だろうが!」
「多少は渡しますよ。そうですねぇ……仕事内容は、本の整理と掃除、後は僕に付き合ってください。じゃあ、早速ですが出かけます」
「やるって言った覚えはない!」
「気にしない、気にしない」
飄々と話してはいるが、こんなバイト受けるつもりは無い!
さぁさぁと背中を押されて奥に連れていかれ、古い……今にも壊れそうな本棚の上から二番目の赤い背表紙の本を引っ張ると、隠し扉になっていたらしく、違う部屋に入った。
「出る時はこの青い背表紙を引っ張ってください。さて、お昼ご飯を取りに行きましょか」
「どこに……」
「そうですねぇ……この部屋にある本の中で、目に止まった本を一冊手に取ってください」
昼飯に本かよと突っ込みたくなったが、何を言っても無駄だろうと、目に止まった白い皮の表紙の本を手に取り渡す。
「ほぉ。いいですねぇ、暑い日にピッタリです」
そう言って本を扇子で叩くと、パラパラパラパラとページ捲れ、「行きますよ」と手を掴まれたと思ったら、何かに引っ張られるような感覚と共に視界が揺れる。
一瞬、頭がふらっとしたが、今、目の前に見えているのは真っ白な雪景色。
「どうなってるんだよ……」
「ここは本の中の世界ですが、安心してください。ちゃーんと満腹になりますから」
「本の世界ってなんだよ……さっきまで店にいて、本を覗き込んだら雪景色っておかしすぎるだろ!」
「話すより、経験してもらった方が早いと思います。僕について来てくださいね」
膝近くまである雪の中をスタスタと歩く店主が道を作ってくれているので歩きやすいが、こんな雪かきレベルの雪を一体何をどうしたら道になるのか……
「いいですねぇ、考えることはとてもいい事です」
「考えたくても分からないことばかりじゃねーかよ……」
それでも歩くのを辞めない店主について行くと、本でしか見た事のない……いや、攻略本で嫌という程見たマンモス。
しかも、今、俺がやってるゲームに出てくるマンモスのモオーンにそっくりだ。
「分かりましたぁ?」
「そんな訳……」
「何でしたっけ? 君のやってるゲーム。あれに出てくるモオーンですよ。君の考えてる事は当たってます。ここは本の世界。君が手に取った時点で、一番君に影響を与えているものの所に行きます。今回は……ですが」
「確かにゲームはするし、あの牙の形はいつもゲームで見てるのと同じだけど……まさか、マンモスの肉が昼飯とか言わねーよな?」
「またもやご名答。倒してしまいましょうか」
どうやってだよ!
今、ゲームでも苦戦してるのに……
こちらに気づいたのか、団体でドスンドスンと向かってくる。
テレビ画面で見る主人公とモンスターの大きさとは違い、こちらはそのまんま、自分の身長175センチに対して、モオーンは動物園で見た象よりデカい。
「逃げないと……」
「あぁ、忘れてましたぁ。これをどうぞ。武器です」
渡されたのは、警棒……みたいなもの。
「アホか!」
「ほら、シャキーンと伸びてかっこいいでしょう? ちなみに、自分が思った武器に変形するので、想像してみてください」
「は?」
「早くしないと来ますよ?」
ちくしょう!
これは夢だ!
リアルな夢だ!
そう自分に言い聞かせ、いつもゲームで使っている槍を想像すると、警棒らしきものが槍に……変わった。
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