第7話 女にモテねえぞ、ご主人様
「今日はここで肉買って、あっちで安くなってる魚を買って……」
「ちょ、ちょっと待って、そんなに色々いくの?」
「はぁ? 当たり前だろうがご主人様」
屋敷から数分歩いたところにある商店街でカサネは安くてお得なものを店を分けて計画的に回っていった。
僕はてっきりスーパーで済ませると思っていたんだけれど……。
「というか、前までは爺が全部通販で済ませてたからなあ」
「ああ、あの足腰じゃ買い物にいけねえだろうからな。今日はご主人様が荷物持ってくれるってから、張り切って買うぞ! ほらついてこい!」
「ひ、ひええええ」
◇◇◇
おかしい。
こんな街中に堂々とメイド服を着たヤンキーがいるのに、誰も不思議に思っていないみたい。
なんなら電柱に隠れてこそこそしている私の方が怪しく見えるじゃない。
最近、虎徹の家の老ぼれ執事に変わってメイドとして勤め始めたというあのヤンキー。
この前はうっかり引けをとってしまったけど、その仕返し、恥ずかしい瞬間を見つけ次第、激写してやるんだから。
ま、虎徹と二人きりにしてくれた瞬間を作ってくれたことには感謝するけど、それとこれとは別よ!
虎徹をあんなくそでかおっぱいで誘惑するようなものなら、私が許さない……。
……うらやましい。
自分の胸を見比べて虚しくなった。
などと考えていたら虎徹とヤンキーメイドが魚屋さんの前で足を止めた。
金持ちのくせにこんな商店街でちまちま買い物をするなんてずいぶんケチなメイドね。
私が虎徹のお世話をしてあげた方がよっぽどいいんじゃないかしら。
……!?
あの女! ショーケースをみるフリをして胸を虎徹に押し当てている!?
なんて卑劣な反抗! それに虎徹のあの顔! 絶対意識してる!
私だって虎徹をあんなふうに誘惑させたいもん……!
はあ……はあ……
落ち着くのよ私。
藤ケ丘家の令嬢たるもの、こんなところで気を乱していてはいけないわ!
あっ、待って、どこに行くの……って、今度は花屋!?
一体なにを……って、ん?
あんな小さい花を二輪だけ?
どれだけケチなのかしら、主人へ贈る花なんだからもっとこう、ぱーっと、どわーっとしたやつ買いなさいよ!
こんな街の花屋じゃなくて、職人が生けたやつを……。
あーーーダメダメ!
虎徹があのヤンキーメイドにダメにされてしまう!
私の尾行はあの二人がおそらく全ての買い物を終えるまで続いた。
◇◇◇
「お、重いよカサネ……」
「軟弱だなあ、そんなんじゃ女にモテねえぞ、ご主人様」
「べ、別にモテなくてもいいし……」
「藤ケ丘のとこのお嬢さんから愛想尽かされるかもよ?」
「え、なんで侑が?」
「はあ……そういうとこだぞ、ご主人様」
カサネが何をいってるかよくわからないけれど、とにかくお金持ちのおぼっちゃまでもそれなりの甲斐性は見せる必要があるらしい。
寝る前に腹筋でもするかな……。
僕は両手にいっぱいの買い物袋を持たされているが、一方のカサネは途中で寄った花屋で買った薄桃色の花二輪だけを持っている。
屋敷を出るときには花屋に行く予定など聞いていなかったのに、どうしたのだろう。
「ところでカサネ、その花、うちの屋敷のどことどこに飾るの?」
「うちに飾るのは一輪だけな」
「え?」
「わりいけどご主人様、ちょっと先に戻っててくれね? ちょっと用事済ませてから追いつくから」
「え、でも」
「ノロマなご主人様にはすぐに追いつくから、ほら、行った行った」
「え、ええ……」
このヤンキーメイドは一体僕をなんだと思っているのだろう……。
◇◇◇
……わたしだってまだこれからおっきくなるし、それに胸だけじゃないし……そもそも幼馴染だから私の方が……
「一緒に買い物ついてこればよかったのにな、お嬢様」
「ななななななななっっっっ! ヤンキーメイドッ!!! いつから気づいて!!!」
「最初っから。尾行ってのはもっとバレずにするもんだぜ、ほら」
そういってこのヤンキーメイドは手に持っているスマホの画面を私に見せてきた。
「なっ! これはなによ!!!」
「この前学校でお嬢様を尾行してたら撮れたパンチラ写真だけど?」
「今すぐ消しなさい!!!!」
「ご主人様に見せよっかなぁ〜」
「今すぐ消さないと藤ケ丘家の力であなたを消す!!!」
「冗談だって、お嬢様が自分からご主人様に見せるその日までは内緒にしておくから」
「じじじじじじじじ自分でってあなたなにをっ!!!」
このヤンキーメイド、一体何を考えているの破廉恥なっ!
「そんなことより、これ」
「これは……さっき花屋で買ってた花?」
「これ、一輪はご主人様の寝室に飾るつもりなんだけど、もう一輪、いる?」
「えっ……」
◇◇◇
「金剛!金剛はいる?」
「お呼びでしょうか、お嬢様」
「あなたも執事としてだいぶ成長したわね」
「光栄です、お嬢様」
「新しい仕事を任せるわ、これよ」
「これは……? ずいぶんと可愛らしい花ですが」
「この花の水の取り替えなどをお願い! いつかは枯れちゃうかもだけど、なるべく長く保たせるようにしなさい!」
「承知しました」
「頼んだわよ」
「なんだか嬉しそうですね、お嬢様」
「べべべべ、別にっ!」
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