第15話 それぞれの休日
宿屋のおばちゃんが去った。どっと疲れを感じた。俺たちは気を取り直して、朝食を食べに揃って部屋を後にした。真鍮のちゃちい鍵を掛け、モリネロがしっかりと魔法の鍵を掛ける。まったく、これが俺たちの当たり前になっているが、この事だけでも、この宿のレベルと、周りの環境の悪さが推し量れるというものだ。
建物の正面の通りに出ると、紅葉した落ち葉が石畳の街路をカサカサと走り、風は少しひんやりするものの、日差しは強く気持ちの良い天気だった。今日は公休日とあって街全体がまだ寝起きのような様子で、人通りもいつもより少なく、普通の店の多くは閉まっている。と、言ってもここは冒険者たちが多く住む区画なので、道具屋、武器屋などの店はすでに営業中だった。冒険者たちの多くも、この公休日に合わせて休んでいるようだったが、競争相手が少ないこの日にあえてダンジョンに潜るパーティも少なくないようだ。冒険者たちの不文律の
俺たちは朝から活気のある冒険者たちが集まる食堂ではなく、静かな堅気の店に行くことにした。今日は
「で、お前たちは何か予定でもあるのか?」
ウリクルは俺たちに聞いてきた。
「俺はギルドに行って確認したいことがある」
「私は魔法の道具屋に行ってみようかと。その後は図書館へ。時間があれば」
この街のいちばんのウリはもちろん
そしてウリクルはというと、「家を探す」という。テーブルに運ばれた食事とエールをいつもながら美味そうに平らげながら、
「今のあんなボロ宿さえ、ひと月の宿代で考えるとかなりの額になるだろ? それだったら腰を据えてダンジョンに挑む冒険者たちと同じように、俺たちも手ごろな部屋を借りたほうが安上がりだし、何より、今よりは住みやすいだろ」
と、言う。
「確かにそうですが、今のように泊まりではなく、月極で部屋を借りるまとまった金が私たちにはないですよ」
モリネロが言う。
「まあな。それは分かってるけど、当たりをつけておくくらいはいいだろ? 明日にお宝に出遭って大金が入るかもしれないしな」
と、ウリクルは言う。常に前向きなのは見習うべき美点かもしれない。しかし――
「金もそうだけど、俺たちにはまだ信用がないぜ」
これは冒険者としてこの街でまだ日が浅く、大きな成果を上げていないから仕方ないが、金と同じくらいに冒険者には信用が大事だ。ダンジョンで目に見える成果、戦果を上げなければ、ダンジョン探索以外の、ギルドに舞い込む様々な金になる
実際俺たちも確実に成功報酬が提示された
「だから、たとえば今すぐ半年分の家賃を払えるってことなら別かもしれないけど、普通に借りるのは難しいんじゃないか?」
それでもウリクルはめげずに探してみたいという。休みをどう使おうと勝手だが、明らかに無駄足になりそうだったので、俺はウリクルを誘った。
「それ、良いと思うけど、俺の用事を先にしたほうがいいかもよ」
「え、なんで休みの日にギルドに行かなくちゃならないのよ」
ウリクルはまったく乗り気でなかった。
「分からないけど、認してみる価値はあることなんだよ」
「それはどういうことですか?」
モリネロは興味をそそられたようだ。
「金と信用を一挙に手にできるかもだぜ」
俺は言ったが、自分自身、あまり確信は持てていなかった。でもダメもとってやつだ。ウリクルは胡散臭そうに俺を見る。本当なら3人でギルドに行くようなことだったが、もし、門前払いされたらと思うと、俺もそれ以上詳しく話せなかった。
結局、ウリクルは誘いに乗らず、朝食を済ますと、それぞれの用事があるところに行くことになった。夜になったらまたこの店に戻って来て、夕飯を食べることにして。
独りで歩くのは久しぶりだった。いつもより身軽でもあり、少しだけ心もとない気持ちにもなる。いや、俺が独りでなかったのは、この街に来てからのことで、まだ1週間ほどに過ぎなかった。それだけ俺たちは濃い時間を過ごしてきたと言えるのだろう。たった1週間、されど……。
俺はギルドに向けてのんびりと歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます