第7話 夜も更けて 「踊る赤竜亭」その2

 夜も更けてきて「踊る赤竜亭」でも喧騒が徐々に変わっていくのを感じた。さらに盛り上がりを見せるテーブルがある一方、酒も回り美味い食事で腹も満たされて静かに語らう者、酔いつぶれて乱れる者、寝に入る者など――。

 そんな中、我らのテーブルはというと、早いペースで酒を飲み続け、ひとり気持ちよく酔っ払いぐずぐずになっているウリクルと、酒を飲んでも淡々とした様子は変わらないモリネロ、実は酒はあまり飲めずにひたすら食べる俺、といった感じ。俺たちは今日のダンジョンのことを中心に取り留めもない話をしていた。


「モリネロがあそこで隠し扉の仕掛けを見つけたのは大きかったよな」

とウリクル。

「本当だな。俺はそんな仕掛けがあることさえ考えもしなかった」

「いやいや、たまたまです。ですがあれで、あのダンジョンには意図があるんだと感じませんでしたか?」

意図? 俺とウリクルは続きを促した。

「つまり、ただ偶然にダンジョンが存在するのではなく、明確な意図があって存在しているんじゃないでしょうか?」

モリネロが言うには、あの仕掛けで現れた小部屋と宝箱、それと宝箱と貨幣が入っていた麻袋に、ダンジョンに挑戦する冒険者たちへのメッセージを感じたという。それについては俺も思い当たることがあった。

「それ、俺も思った。何もない殺風景な部屋の広さに不似合いな、ひとつだけ置かれた宝箱――」

「そして、それと同じようにあの宝箱の大きさにしては小さな麻袋ひとつだけという中身。その関係性が似ていること、何より、私たちが得た宝が金貨7枚程度のものだったこと、これにダンジョンの創り主の悪戯めいた意図を感じませんか?」

モリネロが俺の言ったことに被せるようにして説明した。ウリクルは酔っていて俺たちの話に完全に置いてけぼりをくらっていたが、頭をフル回転させてついてこようとしていた。

「え~と、つまり、ダンジョンには誰かがいて、俺たちが来るのを待っているってことか?」

当たらずも遠からずだ。俺たちが宝箱を見つけ喜んでいたところを、「まさか地下の第一層の始めの部分で、莫大な宝が手に入るとか思っちゃいないよね?」という、捻くれた悪戯をして密かに喜んでいるヤツがいるんじゃないだろうか? 酔っていない正気のウリクルだったら同意したかもしれないが、見ると完全にテーブルに突っ伏して寝に入ってしまった。この男を寝床まで連れていくことを考えると、朝までここで飲み明かしたほうがましな気がしてきた。


 モリネロに今夜の支払いついて確認するが、今のところ問題はないとのことだった。他の街よりも物は随分割高なうえ、中でも冒険者たちが足繫く通う人気の酒場だったが、値段がべらぼうに高いこともないようで安心した。俺たちは今日手に入れた金貨7枚のうち、2枚をそれぞれに渡し、残りの1枚から俺たちが泊まっている安宿に3人、1週間分の宿代を前払いして、その余った分の銀貨5枚と小銀貨、銅貨を合わせて今日の飲み代と当面の装備品の購入に充てようと考えていた。3人で使う金はモリネロに預けて管理してもらうようにしている。取り急ぎ買い揃えなければならない物はなかったが、どのくらいの頻度でお宝を見つけることができるのか全く先が読めないので細々とやっていくほかない。周りの冒険者たちを眺めると、羽振りのよさそうなパーティもいれば自分たちと同じようなパーティなど様々だ。


 今日のところは幸運に恵まれた俺たちが明日はどうなるか分からないが、金のことばかり考えなくてはいけない状況からとりあえずさっさと抜け出したい、俺はつくづく思った。




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