第4話 秘密の小部屋
それから骸骨の剣士を倒した俺たちは、金目のもの、役に立つものがないか、その部屋を丹念に探すことになった。
この未だ全容の知れない
勿論、俺たちがいるような“壱の穴”や浅い階層で見つかるお宝などたかがしれたもので、ただ一度戦っただけでお宝に出会う、などと都合の良いことは考えなかったが、それでも不気味に暗闇を照らす燭台の明かりの中、何かありはしないかと部屋の中を探っていた。部屋の中央にあるテーブルには、割れた皿、鉄製のナイフやフォークが元の柄も分からないボロボロのテーブルクロスの上に雑多に置かれていて、蠟燭が灯された燭台だけがやけに場違いに見えた。
「さっきの骸骨たちは暗いのは苦手だったんですかね」
モリネロは誰にともなく呟いたが、骸骨が明かりを必要とする気の利いた理由が思いつかなかったので答えなかった。壁はあちこち表面の漆喰が剥がれていて、木製の額縁が掛かっていたが、これも何を飾っていたのか分からない。部屋全体がどうしようもなく時が経ち、朽ち果てている以外にこの部屋を表現する適当な言葉は出てこなかった。俺はそろそろこの部屋を出て次の部屋か魔物を倒すことを考えいた。ここで少し腹ごしらえをしてもいい。ウリクルはもう少し粘って探していたが、何を探していいかよく分かっていないようだった。正直なところ俺もそうだったが。
「明かりか…」
何が気になるのか、モリネロは部屋の中の明かりに目を向けた。明かりは全部で4カ所。テーブルにひとつ。入ってきた扉から見て左手の奥にある腰の高さほどのチェストの上、右手の奥の壁、そして扉の左側。それぞれを近くまで行きじっと見て、何かぶつぶつ言いながら歩いていたモリネロは、ウリクルに持っている松明に火をつけてくれないかとお願いした。さっきの戦いでウリクルは松明を棍棒代わりに使い、骸骨の頭を強く殴ったりして火は消えたままだった。この部屋に明かりがあったから良かったものの、戦いの度に明かりを武器に使うのはいただけない。後で言っておこう。
ウリクルは近くにあるチェストの燭台から火を移して松明に明かりをつけ直した。すると、モリネロはちょっと試したいことがあると言って、部屋にある明かりを消していった。
「おい、探し物がしづらくなるじゃないか」
ウリクルは不満の声を上げたが、モリネロはそれには応じずに全部を消してしまった。濃くなった闇がぐっと近くにまで這い寄ってきた感覚になるが、その時、チェストが置いてあるすぐ近くの壁がゴゴゴッと鈍い音と振動を立てて奥に引っ込んでいった。
「やっぱり。明かりは何かの仕掛けじゃないかと思ってましたが、隠し部屋を開くスイッチの役目だったんですね」
とモリネロが言った。骸骨たちのために明かりがあった訳じゃないことをモリネロは見事に証明してみせたのだ。それから暫くの間、動いていく壁を俺たちが見ていると、大人の背丈くらいの長方形の入り口のようなものが現れた。奥から何か良からぬものが出てくるのではないかと身構えるが、そこからは何も出てこなかったし、それきり何の物音もしなかった。逆に俺たちがその中に入るのを待ち構えているかのような不気味な感じだった。
「せっかくだし中に入ってみようぜ」
俺は小声で言ってみると、その入り口のいちばん近くにいるウリクルがこちらを振り返り、親指を立てながら「俺が先にいくぜ」と声を押し殺して言った。そして俺が注意するよりも早く、松明を突き出しながら勢いをつけて暗闇に滑り込んでいった。
随分と不用意に行きやがったなと思ったのと、ウリクルを追って身体が動いたのは同時だった。出会い頭の敵に備えて中腰のまま壁の穴をすり抜けると、中は思いの外広い小部屋のようだった。ウリクルが松明を掲げて立っていた。
「ウリクルっ!」
声を掛けると右手をちょっと挙げてみせた。魔物はいないようだが、モリネロもすぐ後から入ってこようとするのを俺は手で制した。閉じ込められる可能性を考えてさっきの部屋で待機してもらう。
「宝箱があるぞ」
ウリクルが静かに言った。やつの言った通りガランとした何もない埃っぽい部屋にポツンと宝箱が置いてあった。鍵穴はなく、錠前も付いてなかった。松明に照らされたそれを前にして、俺もウリクルもしばし立ち尽くした。
仕掛けによって現れた小部屋。
他に何もない部屋に、ひとつだけ置かれた宝箱。
よっぽどの馬鹿でもこれが怪しいってことは絶対に分かるだろう……しかし。ウリクルが口を開いた。
「分かっちゃいるが、ここで開けないのはもっと大馬鹿ヤロウだよな?」
俺は待機するモリネロに事情を話し、交代して小部屋に入って宝箱の様子を見てもらい、そして俺たち3人が大馬鹿ヤロウでないことを確認し合った。
「よし、俺が開けてみる。今日はお宝で美味いもん食おうぜ」
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