第2話 初めてのダンジョン

 広場から足を踏み入れた先に石造りの階段が下へ延びていた。元々は頑丈な作りだったのだろうが、長い年月が経ち、さらにここの存在が冒険者たちに知られるようになり、多くの者が行き来することでだいぶ破損が目立ち、こびりついた泥やきっと傷ついた冒険者たちの流した血もまじっているだろうな……。俺はぼんやり考えながらも、確実に緊張してきたのを自覚していた。あまり表情を変えることの少ないモリネロは普段と変わらないようだし、ウリクルはフリではなく本当にリラックスしてるように見えた。俺だけがビビっているようで面白くなかったが、ふたりを頼もしいとも感じた。ひょんなことから出会い、パーティを組むことになったが足手まといにならないようにしなければ……。


 階段を40段ほど降りたところで底にたどり着いた。階段の壁にはランタンが間隔を空けて明かりを灯してあったが、ここからがいよいよ本番だ。決めてあったように松明に火を灯したウリクルが暗闇に足を踏み入れる。俺が続く。記念すべき一歩だが、特に感慨は湧かなかった。そんなものか。俺の後にモリネロが少し離れてついてきた。


 先頭を進む大柄なウリクルの松明の明かりで壁がゆらゆらと揺れ不気味だった。全体が湿っぽく、足場は硬い岩で少し凸凹があるところに湿り気があるので、滑らないように気をつけなければならない。自分たちが出す音だけで、危険な兆候は今のところ感じられないが、もちろん油断はできなかった。


 うねうねと概ね西に向かって一本道を歩き続けるうちに、俺は張り詰めた緊張が少し柔らぎ始めた。さらに道を進むとアーチが掛かっている場所があり、その先は広間のような所に出た。全体が石造りになっており天井も2階分の高さはありそうだ。明かりはないが、広い場所に出て気分も少し良くなった。


 これまでのところ、自分たち以外の冒険者やダンジョンに蠢く魔物などに遭遇しなかった。中はひんやりとしていたが、警戒しながら歩き続けてきたのでじっとり汗ばんでいた。他のふたりに変わりはなく、良い緊張感を保っているようだった。道はそのまま先に続いていた。俺たちはそのまま先へ進むと、似たような広間に何度も出たが、基本的には一本道が続いていた。


 どのくらいの時間が経ったのだろう、ウリクルが「何も出てこねぇな」と呟いた。思いの外その声が大きかったことに本人がビクッとしたが、確かにそうだった。まさか何事もなくこのまま下の階に通じるところまで行ってしまうのか? と思った矢先、ようやく別れ道に行き当たった。


「俺は左がいい」

さして考えもしないでウリクルが言い、左右の道を照らしてもらいながらじっと考えていたモリネロも左を指した。俺はふたりの意見に従うことにした。多数決ってやつだ。特に確信もない時は任せるのがいちばんだ。

「当たり前だけど、魔物たちがいる方に進むってことでいいんだよな」

ウリクルは念押ししてきた。

「遭いたくない奴がわざわざこんなとこに来るかよ」

俺は言い返したがいまいち声に説得力がなかった。気弱になってるのだろうか、俺は……。


 また暫く歩いていくと右側に頑丈そうな扉が見えた。鍵穴は見当たらなかったのでそのまま押し開けそうだ。耳を当ててみたが物音はしなかった。ただ扉は分厚かったし、どんな音がしたとしても開ける以外の考えは俺にはなかった。ウリクルの目は完全に戦闘態勢になっていたし、モリネロも短い杖を手にして用意はできているようだった。俺はそっとノブに手をかけゆっくりと回して左肩で扉を開ける体勢作り、ふたりに目で合図を送った。


用意はいいな? 気合い入れてくぞ!

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