冒険はダンジョンから

オトギバナシ

第1話 とにかくダンジョンへ

 今日は仲間と初めてダンジョンに入る記念すべき日だ。この街はダンジョンを中心に急速に膨れ上がった城砦都市で、ダンジョンで一攫千金を夢見る冒険者たちが必要なものは、金さえあれば何でも手に入る。しかし俺と戦士のウリクル、魔法使いのモリネロはそれぞれダンジョンに必要な最低限の物だけを、いちばん安く買える店を探し歩き、そして結局金を惜しんでとにかくダンジョンに潜り込んでみることで意見が一致していた。


 経験のある冒険者なら、金を惜しんで自分の命を疎かにする愚か者と言うだろうが、そもそも俺たちにはそんなありがたい助言をしてくれる先輩冒険者はいなかったし、ダンジョンに挑む愚かな者たちはそれこそ途切れることなくこの街にやって来るので、愚か者で溢れ返って街がパンクすることがないように、ダンジョンがそんな奴らを速やかに食い尽くす“ふるい”のような役目を果たして、より慎重でツキに恵まれた者だけが生き残る仕組みができているのだ。ま、要するに馬鹿はほっとけってことだが、もちろん俺たちはそうじゃないことをこれから証明してやるつもりだった。


 とにかく俺とウリクルとモリネロの3人はダンジョンの入り口まで意気揚々とやって来た。


 ここのダンジョンは現時点で5つの入り口があることが分かっていて、その中の最も易しいと言われている東の入り口、通称壱の穴だ。いかにもまだ駆け出しの者たちがちらほら見受けられるが、ダンジョン自体は日が昇る時刻から入ることができるので、大抵の冒険者たちは既に入った後であまり多くはいなかった。ウリクルがダンジョンを前にして言った。

「とりあえず何か食うか?」

「朝飯を食べたばかりだろうが」

俺もモリネロも取り合わなかったが、ウリクルは

「初めてダンジョンに入ろうって時だから景気づけに食べようぜ」

と譲らなかった。

まだ出会って日の浅い仲だったが、冗談めかして言いながらも期するものがあるんだろうと思い、やりたいようにやらせた。まぁ、どうせたいした時間もかからないだろうしな。


 すると、早速ウリクルは背中の荷物を下ろし、中からパンと干し肉、それに酒を引っ張り出してダンジョン前の薄暗い広場の一角に座り込んで本当に食べ始めた。モリネロは珍しい生き物を見るような目でその様子を見ていたが、自分もやつの隣に腰を下ろし魔法書を出して熱心に読みだした。これから使うことになる呪文の確認だろうか。仕方なく俺も入り口に背を向ける位置、逸る気持ちを抑えてウリクルの正面に座った。ウリクルはちらっと俺を見てニヤっと笑った。

「前のめりに行き過ぎると足下をすくわれるぜ」

「俺が緊張してるって言いたいのか?」

俺は少し憮然として言った。ウリクルはパンを詰め込んだ口でもごもご言ってはぐらかした。俺もそれ以上言わずに、自分の持ち物を確認することにした。


 無論、武器などの装備はこの街に来る前から持っている。俺の武器はちょっとした自慢の逸品で、この王国の東の辺境を治める者たちが特別に鋳造する反りのある片刃の剣で、「かたな」と呼ばれる武器だ。この愛刀と自分の業がどれだけダンジョンの魔物たちに通用するかを俺は早く知りたかった。その他、松明、火口箱、傷薬、食料、水筒など、普段旅をして回るような荷物だけ持って来ていた。今のところダンジョン内で寝泊まりするつもりはなかったし、それをするには俺たち3人では心もとなかった。他のふたりも基本的には同じようなもので、より確実に、ダンジョンを攻略するような特別な道具はもっと金が貯まった後にしようと考えていた。色々考えても初めてのダンジョンで死んでしまったら意味がないので、先のことはあまり考えないようにしていた。


他に理由があったにしても食べ終えたウリクルは、手早く荷物を整え、

「さぁ、いこうぜ」

と言った。これから飲みに繰り出すような軽い口ぶりだった。ダンジョンの入り口は俺たちを迎えてくれていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る