第38話
「よう……」
「高山さん。どうしたんですか?」
「あ、いや謝ろうと思ってな」
彼は結果的にに騙す形になった事を気にしているのだろうと思った。
「貴方は悪くないですよ。僕らを引っ張って行ってくれた事は感謝してます。正直、高山さんが居なけれは僕も武明もどうなっていたか分からないです」
「それならいいんだけどな……」
そう言ったはずが、彼は膝に手を付き深く頭を下げた。
「本当に申し訳ない」
「だからいいですって。高山さんは最善を尽くしてくれたんです」
「いや。あの時俺が気付いていれば」
「それは僕も同じです、気づいた杏ですら対応出来なかったんですから」
「それは……」
「知ってます? 僕の彼女、アンドロイドだったんですよ? いくら特殊部隊とはいえ人間の高山さんにそれ以上の反応は求めてないですよ」
僕は涙を堪えながらそう言うと、高山さんも目を赤くしながら頷いた。しばらく僕らはこの感情が流れ切るを待つかの様にその場で堪えていた。
「そうだ。これ……」
「これってスマホ?」
「無理言って取り返してきた。片方は彼女のだろ?」
手持ちの荷物は確認の為に預かられていた。あの時に持っていたのは自分のスマホと、最後に彼女が渡してくれた物だった。
「そうですけど……いいんですか?」
「お前の物だと思っているな。とはいえあそこまでやったんだ、今更その程度の事を立件するつもりはないさ」
高山さんから受け取ったそれは壊れているのか、電源が入っていないだけなのかはわからなかった。それでも、数少ない彼女が持っていた物には違いない。
「ありがとうございます」
僕は深々と頭を下げ、スマートフォンを握りしめたままその場を後にした。
♦︎
あれからどれくらいの時が経っただろうか。僕は元通りとは言わないまでもまた高校生を続けている。あの事件の事に関しては箝口令とまではいかないものの誰もがその事には触れては行けない様な空気になり次第に風化していった様に感じた。
「成峻、この後予定あるか?」
「ああ、うん。別になにもないよ」
「じゃあちょっと付き合ってくれよ」
そう言って学校の帰り、武明に連れて行かれたのはカラオケだった。彼なりに励ましてくれるつもりなのだろう。しかし彼は個室に入ってからも歌おうとはしなかった。
「武明、歌わないの?」
「もうちょっと待ってくれよ。旭も来るから」
「なるほど……」
杏が居なくなってからは以前ほど武明達とは遊ばなくなった。元々連んでいたわけじゃないか特に遊ぶきっかけがなかったといえばそんなものだ。事件を彼は性格上、声を掛け辛かったと言うのもあるかもしれない。
「なぁ……」
「ん?」
「あの時貰ってたスマホは帰って来たのか?」
「うん……高山さんが持って来てくれた」
「そうか、良かったな。俺のもあの人が持って来てくれてさ」
武明が少しだけ言葉を詰まらせたのがわかった。
「あのさ。俺、警察官になろうかと思う」
「いいじゃん。なんでそんなに暗くいうんだよ」
「いや、成峻は嫌がるかも知れないって思って。けど、あの時高山さんは本気で俺等の為に命張ってくれたと思うんだよ」
なぜ彼が言いにくかったのか、それでも僕に伝えようとしたのかを理解した。
「うん、僕もそう思うよ。結果的にはあんな形になってしまったけど……応援するよ」
すると武明から妙な緊張感が消えた。そのまま彼はソファに倒れ込む様に天井を見上げた。
「良かったぁ。成峻には絶対言って起きたかったんだよ」
「武明ならいい警察になれると思う」
すると彼は肩を組み顔を近づける。いまではもう彼の距離感に慣れてしまった自分が居る。
「それでさ、本題はここからなんだけどな」
「えっ?」
「俺さ、スマホ返してもらう時に高山さんに連絡先聞いたんだよ」
「なんでまた?」
「この人みたいになりてぇなって。またそのうち飯でも行けたらと思ってさ」
「その理由で行動出来るのは武明だけだよ」
杏との事がきっかけになり、僕らはそれぞれの道を歩き始めた。いや、正確には動き始めたのは僕の周りであって僕自身はまだ杏が居た時の世界に取り残されているのだろう。
「それでさ……」
「どうしたの?」
武明の雰囲気が変わる。僕らの他には誰も居ないカラオケルームの中で彼は周りをキョロキョロと見渡すとBGMにかき消されそうなほど小さな声を耳元で囁いた。
その小さな声は普段なら聞き逃してしまうかも知れない。けれども僕にはハッキリと聞こえた。
「道井忠……杏のお父さんに会える事になった」
「本当に?」
「ああ、誰にも言うなよ」
「言わないし、言う様な人はいない。でも、捕まっているはずなんじゃ?」
「そもそも捕まったのも杏が原因だ。でもああなった以上執行猶予と言う形で出られる事になった」
「じゃあ……」
「でも、本来ならあり得ないのだが見張りがついてんだよ。また、第二の杏を作る可能性があるからな?」
しかし僕は道井パパがゼロから作る事が出来ないというのは知っている。彼は外側を作ったに過ぎないと言うのは話のながれから察していた。
「見張りがいるんじゃ会うのは危ないんじゃ?」
「成峻、気づかないのか?」
「気づかないって何を?」
「そんな情報、なんで俺が知っていると思ってんだよ?」
「まさか!?」
「そう、高山さんが見張りに着くんだよ!」
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