第31話
ゆっくりと開いた扉には、人の気配は感じなかった。パッと見は誰もいない普通の家。気分は友達の家に忍びこんだ様な、罪悪感と緊張感が混ざらずに粒々が生まれていく様な感じ。
「なぁ、成峻。俺等は別に間違った事はしてないよな?」
「多分……」
「だけど、見つかったら不法侵入とかで捕まってしまうんじゃねぇか?」
武明のいう事はもっともだ。関係ない、これしか無いんだとは僕には言えなかった。
「だけど、関わるなら知っておかないといけない。武明まで巻き込む訳には行かないから、下で待ってていいよ?」
「そう言うなって。成峻が決めたんなら俺ものるよ、友達だろ?」
いつものセリフ。だけど僕はもし何かあったら武明だけは助かる様にしようと思った。
外の光が少し入っているものの中は暗い。彼女の家だというのに、ドキドキする感覚は黒くどんよりとした感じがする。
「普通の家だな……」
「特別な感じはしないよね」
トイレに風呂、すぐ前にはキッチンが付いたリビングがある。見た感じは極々一般的な家にみえる。扉が閉まっている部屋が二つ。杏と道井パパの部屋なのだと推測できる。
手をかけると、武明が肩を掴んだ。
「いいのか?」
「何が?」
「普通の部屋だったら、お前に罪悪感だけ残るんじゃ無いかと思って」
「それはもう遅いよ。解決する為に進むしかないと思っているから」
そっと開けると、フィギュアが並ぶ部屋が見える。ここはパパの方の部屋なのだろう。
壁に並んでいるのはアリスのフィギュア。意外にも荒らされた様な形跡はない。組織は別に中には入らなかったのか? いや、建物を包囲するレベルまでしているんだ、中を調べていない筈はない。
「このフィギュア、」
「うん、アリスだね」
「知っているのか?」
「僕が好きなフィギュアでもあるから」
「杏ちゃんに似てるよな」
「前から僕も思ってた」
杏がアリスに似ているのか、アリスが杏に似ているのかはわからないが、彼女はリアルアリスと言っても違和感がないほどにクオリティが高い。普段着だから違う感じはあるけど、多分コスプレなんかをしたならまさにそのものになるかもしれない。
強いて言うなら髪の色が少し違うというくらいだろうか?
「だけどよう、手がかりになりそうな物はねぇな」
「うん。おじさんがフィギュアを好きなのはわかったけど、多少レアなのを大人買いしているくらいで特別変わった物もないよ……」
状況次第ではテンションが上がる物もあるが、コレクターとしては一般的だ。いくつか限定の物を持っているからと言っておかしな事はない。
「どうする? 杏ちゃんをここで待つ訳にも行かないだろ。とりあえずもう一つの部屋だけいってみるか?」
僕はコクリと頷き、杏の部屋と思われる方の扉を開けた。予想通りというか、思ったよりは生活感のあるシンプルで整理された部屋。学習机があると言うのが意外にも思えた。
「普通だな……」
「うん。あんまり漁るわけにもいかないよね」
「でもよ、せっかくだし見てみたくないか?」
「え、何を?」
「流石に服とかはアレだけど、何か手がかりを見つける為に来たんだろ?」
「そうだけど、」
確かに僕は、この状況を打破する為に来た。何もないままなら杏の家に不法侵入しただけになってしまうと思った。武明もそれを理解した上での事なのだろうと思う。だけど、どこか気が進まない気持ちもない訳では無かった。
「何を見つけたらいいんだろう?」
「何って、杏ちゃんのお父さんの秘密だろ? なんで奴らに狙われているかというか、相手はなんなのかを探しに来たんだろ?」
そう、相手が何か。それと、杏が何処に行ったのかを見つけなければならない。二人で部屋の引き出しやその他何かありそうな所を探す。
すると、杏の本棚からアルバムの様な物を見つけた。
「ねぇ、武明。これ」
「写真か、手がかりとしては弱いよな」
「だけど、僕ら写真なんて撮った事ある?」
「いや、ねぇけど。写真くらい取るだろ?」
「……普通ならね」
僕のその一言で彼は察した。確かに彼女は転校してきたからその頃の写真があってもおかしくは無い。だけど、その頃より今の僕らの方が確実に仲がいい自信がある。
となると、この写真は学校以前の物。杏の事を高校生からしか存在しないと思っていた僕はこのアルバムが気になって仕方が無かった。
「みて、見るか」
「うん」
アルバムを開くと案の定、小さい時の杏と若い道井パパ。それと白衣を着た杏にそっくりの女の人が写っている。
「なかなか古い写真だな。だけどよ、杏ちゃんってロボットだったんだろ?」
「うん……僕は見たから、それは間違いないよ」
「じゃあこれはなんなんだよ?」
道井杏は実在したのか。そうなのだとしたら、このお母さんらしき人は今どうしているのだろうか?
それに、なぜ杏はアンドロイドになったんだ?
「そういえば、鍵……」
「鍵?」
「家の鍵以外にも二つあるんだ」
そう言って鍵を出す。家を開ける際に使った物とは別に二つの鍵があるのを彼に見せた。
「それ、片方これじゃないか?」
武明はそういうと、机を指差した。よくある鍵のついた引き出し。小さい方の鍵はこの可能性が高い。
「開けてみようか……」
すると、入り口のドアが軋む様な音がした。
「誰かきた、」
僕はアイコンタクトをして武明と部屋の中で隠れる場所を探す。ベッドの下とクローゼット、どちらも一人づつしか入れそうも無い。
ゆっくりと足音が近づいてくる中、僕はベッドの下に潜り込んだ。
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