第20話
暗い路地裏を歩く。
とはいえ、特に変わった様子はない。
確かにあの時、特殊部隊の様な奴らはいた。もし、このままメディアで触れられないとするならば、一体あれは何だったのだろうか。
僕は現場に向かいながら色々な可能性を考えていた。
一つは何か国家の秘密の様なものだ。あの場所に自衛隊やアメリカ軍の秘密兵器などが落ちたとしたら必死にそれを隠すだろう。
宇宙人なんかでもそうかもしれない。
もう一つは、あの場所に秘密基地の様なものがあるのかもしれない。過激なヤクザや赤軍などのテロ組織とかの場合も同じ様に表には出さないかもしれない。
可能性を考えていくうちに、武明が言う様に僕らは関わるべきでは無いのかもしれない。そんな事を考えているうちに僕は現場に着いた。
「何もない……」
僕の目の前にあったのは普通のビルだ。
特にブルーシートなどが掛けられているわけでもなくまるで僕等は幻覚でも見ていたのかと思ってしまうほどだ。
だが、近づいていくと違和感がある。
暗くてパッと見では分からないが、よく見ると壁やなどは古く加工されている様に見える。
フィギュアなどで戦場を再現する時にする様な加工だ。本当に古い訳ではなく古く見せている。まさかあの短時間で修理したと言うのか?
だとしたらやはり、僕らが見たのは幻覚じゃなく紛れもない事実だったのだろう。
でもなんで……。
僕は修理された場所の繋ぎ目を探し、周りに何かないか探してみる。もしかしたら原因となったものが落ちているかもしれない。
「そこで何をしている?」
その声に動きを止めた。
背後には誰かがいる。走って逃げるべきか、いやもしかしたら銃なんかを持っているかもしれない。
「あ、いや……」
振り向かず逃げるタイミングを探す。だが、通り側に立たれている以上、ビルの中にしか逃げられない。
「このビルに用があって……」
僕は苦し紛れのいい訳を放つ。
「今はどの階も閉まっている。また別の日にするんだな」
その言葉に僕は少しホッとした。そりゃそうだ、相手も無闇に秘密を明かすわけにはいかない。僕は「わかりました」と自然を装い、そのままビルを出ればいいだけだ。
「ちょっと待て、お前このビルのどこに用があった?」
呼び止められた瞬間、背中に冷や汗が溢れ出すのがわかった。この人はビルの関係者か、それともあの集団の一人だろうか?
僕は必死に情報を探す。
何か来てもおかしくない所はあるだろうか、時間は21時過ぎ、この時間に高校生が来る理由なんて塾や習い事以外ないのではないだろうか。
その瞬間、僕はアトリエという文字を見つける。
「アトリエに用があったんです、自分造形師を目指しているので」
造形師とはフィギュアの型を作る人。アトリエと書いているからには絵画や彫刻などなにかしら関係があるに違いない。それに一般には馴染みのない造形師なら『よくわからないがそういうもの』として納得してもらえるのでは無いかと思った。
「ふむ……」
「そういう事なんで、僕は失礼します」
考えている素振りを見せる男に、時間は与えない。離れてしまえば僕の勝ちは確定する。
早足でその場を後にし、無心で駅に向かって歩き出した。追いかけてくる様子はない、目的ははたしたんだ。
緊張感がおさまらない中、僕は離れる事に成功した。問題は事件が起こっていたとして一体なぜあそこまでして隠す必要があったのか、銃声での被害者は居なかったのかという事だ。
まだ、この場所には何かある。
さっきの男が見回っているというのが紛れもない証拠なんじゃないだろうか。
すると、僕のスマートフォンがなる。
武明か、それとも帰りが遅い事で親がかけてきたのだろうか?
画面をみると、そこには『道井杏』。
何故?
武明に旭がかけていたのを思い出す。
だけど、普段はLINEでのチャットしかしていない彼女が電話をかけてきた事に違和感を感じる。
「……もしもし?」
「成峻くん、今どこにいるの?」
「どこって、学校の帰り道にいるけど」
まだ学校の帰りというのは、不審に思うかもしれない。彼女の用事がわからない以上、とりあえずは聞かれた事に答えるしか無い。
だが、返ってきた返事は意外なものだった。
「今から……会えない?」
高校生の、それも男女だ。正直こんな時間から会うなんて普通ではありえないだろう。いや、僕が勝手にありえないと思っているだけで世の中では普通なのかもしれない。
「いいけど、どこに行けばいい?」
「そしたら……」
戸惑いながら駅の近くのコンビニで待ち合わせをする事になった。今まで、連絡を取ったり武明達と一緒に遊んだりはした事があったけど、二人で、それもこんな夜に会う事になるとは思わなかった。
道井杏は意外と早く現れた。私服でそれもスウェットの様なゆったりとした服を着ている。家が近いのか、近くにいたから会う事を提案してきたのかもしれない。
「待った?」
「思ったより全然早かったよ。近くにいたの?」
「うん……」
「それで、急にどうしたの?」
呼び出したからには何か理由があるはずだ。道井杏は僕の顔を見るなり少し拍子抜けした様な顔をした。
「今日、学校で変だったから」
「あっ……」
武明や事件のせいですっかり忘れていた。彼女はあれからずっと気にしていたのだろうか。
「でも、よかった。もう大丈夫なんだね」
「もしかしてそれで?」
彼女はコクリと頷く。その姿が少し意外だった。
心配とか、気にするとかそんな感情は彼女には無いと思っていたからだ。だけど、彼女の記憶や感情は日々変わってきている、これもそのせいなのかもしれない。
「道井さん、時間ある?」
「あるよ」
「ちょっとファミレスでも行かない? 迷惑かけちゃったし奢るよ」
「いいの?」
僕は彼女に笑いかけ、自然に手を取っていた。
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