Day27 ほろほろ
恋人はひどい浮気症だったのです。付き合っているうち、ぼくの友達に色目を使うようになったので、ぼくは激しく嫉妬するようになりました。
あるとき彼女が、その友達宛に手紙を書いているのを見つけました。ぼくは手紙なんてもらったことがありません。頭の中がかっと熱くなって、気がついたら彼女の首を絞めていました。
慌てて蘇生を試みましたが、無駄でした。彼女が死体になってしまったのが悲しくて、ぼくは彼女の首を切り落とし、クーラーバッグに入れて自宅に持ち帰りました。
それからは楽しい日々が続きました。なにしろ彼女は首だけになっていますから、よそにいって他の男に色目を使う機会がありません。ぼくはとても心穏やかでした。植木鉢に湿った土を入れ、その上に彼女を飾ると、風変わりな鉢植えのようでとても可憐でした。
ところが生まれ持った性格というものは、生首になってもなかなか変わらないと見えます。
先日、ぼくの友達が家にやってきました。あの、美形でちょっと有名な彼です。彼女の鉢は棚の上に隠しておいたのですが、あの女ときたら植木鉢から身を、というか首を乗り出して、舐めるようにその友達を見ているんです。自分に胴体がないことなんかお構いなしなんです。
案の定友達が帰ってしまうと、彼女はガタガタと嬉しそうに震えながら、今にも棚から落ちそうなほど身を乗り出して「ねぇ今の誰」ってぼくに尋ねるのです。遠慮もなにもあったものじゃない。
例によってカッと頭に血が上りました。
うちには大きなオーブンがあるのですが、ぼくはそれを温めながら鉄板の上に彼女の首を載せ、卵黄をといたやつをハケで塗ってやりました。それからギャアギャア言うのも構わず、熱いオーブンに突っ込んでしまいました。すごい悲鳴が聞こえましたが、なにしろ頭に血が昇っていたもので、気の毒ともなんとも思いませんでした。
しばらくしてオーブンから取り出してみると、彼女の首はいい具合にこんがり焼けていました。どうも肉料理というよりは焼き菓子のように見えました。
試しに指で彼女のよく焼けた右耳をつまんだら、ぽくっというクッキーのような手応えと共に取れてしまいました。へぇ、と思って食べてみました。耳は口の中で、ほろほろと溶けて消えてしまいました。
頭ひとつ食べ終わるのに、二日ほどかかりました。
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