Day26 対価

 電子レンジを買い替えたので、そのぶんの料金を支払わなければならない。金が足りなかったので、おれは不足分を左腕の細胞で払うことにした。左腕は肩から手首にかけてスカスカになり、強い風が吹くとふわっと浮き上がった。鍋を持ち上げられなくなって難儀したが、新品のレンジがある分生活は豊かになった。

 次は冷蔵庫が壊れた。家電が壊れる時期というのは不思議と続くものだ。おれは電機屋に向かい、前に使っていたものよりも一回り小さい冷蔵庫を購入することにした。相変わらず金はなかったので、右目で支払うことになった。変更はききませんがよろしいですかと言われてうなずき、一筆書かされた。腕の細胞と違って再生の見込みがまったくないから、眼球を受け取るとき店側は慎重にならざるを得ない。とはいっても視力が低く美しくもないおれの眼球の値段などしれたものだ。今のうちに冷蔵庫と交換してしまった方が、トータルの人生では得だと思った。

 左腕の細胞はなかなか回復せず、おれは対価を少し後悔した。とはいえ電子レンジはとても便利だった。新しい冷蔵庫もきれいで使い心地がいい。やっぱり必要な取引だったのだと自分を慰め、そのうちに洗濯機が壊れてまた買いに行く羽目になる。

 やっぱり金はなかった。電子レンジも冷蔵庫も便利だが、おれを直接富ませるものではないのだ。とはいえ洗濯機は必要なので、おれは下顎を半分と髪の毛を全部対価にして小さな洗濯機を手に入れた。

 髪の毛はともかく、下顎が半分ないのは不便だった。飯を食うときに独特のコツが必要になる。

 反面、洗濯は捗った。一人分の汚れ物くらい手で洗えばよかったんじゃないか、という考えが頭をよぎらないではなかったけれど、そういうことを言い出すとキリがないのだ。洗濯なんかほとんど毎日しなければならないのだから、全自動でないとやっていられない。やっぱり必要な買い物だったのだ。

 そういえば前の洗濯機は、余命わずかな母親と交換したのだった。そういうわけで安い洗濯機しか買えず、およそ三年で買い換える羽目になってしまった。母もおれの下顎や目玉も、家電の代わりに店に並ぶなんてことはなく、どこへ行ってしまったのかわからない。使った貨幣がどこへ行くのかわからないのと同じことだ。

 それよりも大事なことはいくらでもある。とりあえず今は掃除機だ。順番でいくと次に壊れるのはおそらく掃除機だから、そのときの支払いはどうすべきか、考えておかなければならない。

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