Day22 泣き笑い

 水槽の金魚たちが、最近泣くことを覚えてしまった。なにが悲しいのか知らないが、四六時中ププププ、と泡のはじけるような声をあげて泣いている。なので気が滅入る。

 和金が五匹、コメット三匹、出目金二匹の合わせて十匹が泣くさまは、金魚とはいえなかなかうるさい。餌をやったり水を変えたり、今までよりも細やかに面倒をみてやっているのだが、金魚たちは一向に泣き止む気配がない。

 たぶん、金魚であること自体が悲しくてたまらないとか、水から出られないことがひどく辛いとか、そんな理由で泣いているのではないかと思う。そういうことなら、もう私にできることはない。

 悲しみに暮れる金魚たちは餌も食べなくなり、そのうちに和金が一匹死に、出目金が一匹死に、どんどん数を減らしていった。私は毎日のように金魚の死骸を庭に埋め、遺された金魚たちが仲間の死を嘆く。いくらなんでもそろそろ勘弁して、と思っているうちに、金魚は全滅してしまった。

 もう生き物など飼うまい、と思った。でも空になってしまった水槽を見ると、やっぱりたまらない寂寥感がこみ上げてくる。私はペットショップに向かい、間違っても泣かない生き物をください、と頼んだ。

 その水槽に入るやつで泣かないやつねぇ、なんかあったかねぇ、と呟きながら店主は店の奥に引っ込み、ややあって掌に乗るくらいのカナヘビを連れてきた。カナヘビは私を見てニヤニヤ笑った。

「こいつならまず泣きませんよ。なにせ悲しいってことがないからね」

 店主がそう言うそばから、カナヘビは小さな口からヒッヒッと息を吐き、喉をのけぞらせて笑っている。大爆笑の体である。「笑ってますよ」と私が指摘すると、店主は「でも泣きはしませんよ」と自信たっぷりに言い放った。

 どうしようか迷ったけれど、餌はコオロギだというのでやっぱり諦めた。魚も爬虫類もかわいいと思うけれど、虫はちょっと苦手なのだ。仕方がないので水槽には土を詰めて、今はサボテンを育てている。

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