Day21 缶詰
田舎で一人暮らしをしていた祖父が亡くなり、唯一の肉親の私が全財産を相続することになった。幸い在宅仕事をしているので、古いが広い一軒家に移り住むことにした。
家には祖父の雑多な持ち物が未だに溢れている。日焼けした日本人形だとか、五円玉で作った亀だとか、何冊もの日記だとか。その中でも一番処分に困っているのが缶詰だ。
トマト缶くらいの大きさの缶が、一回の納戸をほぼ占領している。ラベルはない。昔ながらの缶切りがないと開けられないタイプで、振るとちゃぷちゃぷと音がする。開けていないから詳細は不明だが、とにかく何かしらは入っているらしい。
いったい何の缶詰なのかまったくわからないまま、それらは一階の納戸に満ちている。満ち満ちている。そう、明らかに増えているのだ。最近は缶詰が邪魔で、納戸のドアを閉めるのが難しくなってきた。このままだと廊下に出てきてしまう。
私は缶詰の手掛りを求めて祖父の日記を辿ったが、あれが何の缶詰なのか、どこで手に入れたものなのか、それに関する記述は一向に見つからない。
ただ二十年前の十一月二十一日、日付の横に「1」という数字が書かれている。数週間おいてそれは「2」になり、またしばらくして「3」に増える。数字が大きくなるペースは少しずつ速くなっていく。最後に書かれた数字は、この家に引っ越してきたばかりのときに数えた缶詰の数とほぼ同じだ。
もしもこれが本当に、あの缶詰の数を示すのだとしたら。私は数字と日付を書き出し、大方の増えるペースを予想した。このままでは三年と経たないうちに一階が缶詰でいっぱいになり、その次の年には家から溢れ出してしまうだろう。庭に満ち、道路に溢れ出して、いつか世界が缶詰で埋まってしまう。
私は最近、この缶詰を開けるか否かひどく悩んでいる。中身が知りたくてムズムズするのだが、開けてしまうと取り返しのつかないことが起きそうで踏ん切りがつかない。とりあえず缶切りは買ってあるけれど、私はまだ一度もそれを使っていない。
缶詰どもは相変わらず増え続け、納戸の中でガタガタと互いに身を寄せ合い、月夜の晩になるとキコキコと、蓋に缶切りを突き立てられたような声で一斉に鳴く。
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