Day18 旬

 お化けのはなちゃんは夏の間中、うちの中をうろうろしていた。でも寒くなってきたので、南の方に行くという。ほかのお化けはもう、みんな暖かいところに渡ってしまったのだそうだ。

 はなちゃんがいなくなると寂しくなるけど、彼女がいると暖房をガンガンかけていても寒くなってくるし、お化けなんてそういうものだから仕方がない。南に渡りそこねて冬眠してしまい、そのまま起きないお化けも多いそうだ。そうなってしまうとかわいそうだなので、わたしたちははなちゃんの旅立ちを受け入れるしかない。

 家から出ていくはなちゃんを、わたしたちは家族みんなで手を振って送り出す。彼女がいなくなった家の中は、なんだかガランとしてやけに静かだ。

 日本を旅立ったお化けたちは、ふわふわと浮いて赤道の方に向かう。その晩テレビを点けると、お化け漁のドキュメンタリーを放送している。外国の船が、飛んでくるお化けをどんどん捕まえて、水槽の中に閉じ込めている。凍らせて食べたりするらしい。日本からお化けがたくさん飛んでくる今の時期は、お化けの「旬」なのだそうだ。

 弟がやってきてわたしからリモコンを取り上げ、テレビを消す。


 お化けに名前をつけたり、手を振って送り出したりするのは、うちくらいのものだってわたしもわかっている。よその家や学校では、みんな「冬はお化けが出なくていいね」って言っているし、わたしもわざわざそれにつっかかったりしない。

 でもみんな、次の夏がきて、自分の家のお化けが帰ってこなくても平気なのかなぁ。

 わたしはベッドの中までも考え事をしてしまう。つい昨日の夜までは、寝ているわたしの足元にはなちゃんが立っていたのに。旬のシャーベットなんかになってほしくないなと思うと、しばらく眠れそうにない。

 これからやってくる長い冬のことを思って、わたしは何度も寝返りをうつ。

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