Day17 流星群

 三年ぶりに会った従姉の翠さんは、二十八歳から三十一歳になり、骸骨みたいにげっそり痩せて、肌なんかカサカサだった。見るからに普通の老け方ではなかった。

 翠さんは■■■情報開示不許可と結婚し、三年間一緒に暮らしていたのだ。そして一昨日離婚し、この町に帰ってきた。よぼよぼのおばあさんみたいになって、今は自力で歩くことも難しい。

「やぁ清太郎。おっきくなったね」車椅子の上で翠さんが力なく笑った。

「翠さんはちっちゃくなったよ」

「そうだね」

 翠さんは笑った。これから少しずつ回復していく見込みだというが、元通りになるまでは長くかかりそうだと思った。

「ねぇ清太郎。車椅子押してよ」

 ある夜、僕は言われるままに町外れの高台まで彼女を連れて行った。長い長いスロープの先に小さな展望台があって、今夜は普段よりも賑やかだ。流星群が見られるのだという。

「翠さん、星なんか好きだったっけ」

「だんなが好きだったからね」

 もう別れた■■■のことを、翠さんはまだ「だんな」と呼ぶ。

「■■■って長命で、普通に何百年とか生きるでしょ。だから、たまに普通の命を見てるのがしんどくなるんだって。そういうときは星を見るに限るって言ってた。星は長生きだからね」

「ふーん」

 翠さんの熱烈なアタックは、三年間だけ実を結んだ。共に暮らし、精気を吸われ続けて三年後、翠さんは痩せてしわしわになり、そしてだんなさんは「どうか別れてください」と頭を下げたらしい。

「このままだと翠さんを死なせてしまう。わかってください」と言われて、翠さんはようやく離婚届に判を押したという。

「私、死ぬ気で嫁いだのに。ばかみたい」

「でも、それは仕方なくない? 事情がさぁ」

「なくないよ。失恋はしんどいね、清太郎」

 そうだね、とぼくは応える。

 三年前に翠さんが結婚したとき、確かにぼくもそれなりにしんどかった。初恋のひとだったのだ。年齢差はあるし、従姉だし、叶うことはないだろうなと思ってはいた。でも今でも、こんなところまで車椅子を押してきてあげるくらいにはまだ好きだし、しんどい。

「流れた!」

 誰かの声がした。夜空にシュッと光の線が次々に走った。

 翠さんの別れただんなさんも、今夜この天体ショーを見ているんだろうな、なんて思ったけど、もちろん口には出さない。僕が黙って夜空を眺めていると、

「だんな、あいつ、たぶん泣いてるな。今頃」

 涙で詰まったような翠さんの声がした。

 星がまたひとつ、シュッと落ちて消えた。

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