第140話 大戦の遺物
「しっかりしなさい!」
――ダダダッ!
いつもは低姿勢なアンジーが、座り込んでいるナイチンゲールに対して命令口調で気合を入れる。それでも呆けているナイチンゲールの足下に、20mm機関砲を発射した。
「はっ!?」
ナイチンゲールの瞳に力が戻り、キョロキョロと周囲を見渡す。空中で戦っている三戸以外は、誰も彼もが諦めたような、生気の無い目をしている事に気付いた。
「これは?」
彼女がアンジーを見上げて問うと、アンジーは空中のルシフェルを見上げながら言った。
「恐らくですが、あの咆哮は鼓膜を通して脳に何らかの影響を与え、恐慌状態に陥らせる効果があるようです」
「なるほど……私も未だにあのルシフェルに対しての恐怖感が拭い去れません」
何か、脳に直接作用する精神攻撃的なもの。そんなアンジーの説明にナイチンゲールも納得したようだった。そして彼女は蛇が巻き付いた意匠の杖を手にし、注射器を各方向へ飛ばした。
イーグル、ホーク、ファルコンの三体は、ルシフェルの咆哮に耐えられず、既に息絶えていた。ナイチンゲールは、先に爆散したエレファントに割いていた分も含めて、全十本の注射器をフル回転させ全員の回復を図る。
「まずは落ち着かせねばなりませんね」
そう言いながら注射器から照射しているのは鎮静剤だった。これで取り敢えずは恐慌状態からは抜けられるだろう。しかし、戦線復帰となるとまた別の話だ。
その辺りはアンジーも心得ているようで、ナイチンゲールに冷静に指示を出す。
「どうやらマスターと私には、あの咆哮は効かないようです。そして――」
ここまで言って、彼女は再び空を見上げる。さっきと違うのは、視線が追っているのはルシフェルではなく三戸だという事だ。
「どういう訳か、マスターの能力が上がっている気がします。ですので、皆様を無理をなさらず、防御に専念していただけますか?」
アンジーの視線の先では、三戸とルシフェルの激闘が繰り広げられていた。いや、激闘と言うよりは三戸が一方的に攻め込んでいる。あのルシフェルを相手にだ。
「ふぁむちゃん! 関羽様やジャンヌ様、それに藤井さん達をここに誘導してください! 皆様が回復するまで、アレの相手はマスターと私で!」
アンジーはそう言うとバーニアに火を入れ、三戸がいる空へと飛び立った。
△▼△
(火砲や
蒼天からルシフェルを直撃した落雷は、治癒と右腕の再生の為に身体をくるもうとした黒翼を焼いた。ルシフェル本体にもダメージが入っているようで、美しい顔が苦痛に歪んでいる。
一方で、三戸も自分の中にある違和感に気付いていた。
ルシフェルの咆哮を聞いた後から、何かのスイッチが入ったかのように力が漲ってくる。身体能力や内包するパワーといったものは勿論だが、最も顕著なのはサムライブレードの威力だ。
(どうも、ただの雷や電撃とは訳が違うようだな)
そんな事を考えている間にも、三戸は攻める手を緩めない。自在に形を変えるサムライブレードでの攻撃を軸に、ミサイルや機銃などでルシフェルの動きをけん制しながら確実にダメージを与えていっていた。
ルシフェルとしては、サムライブレードの雷の刃をまともに食らう訳ににはいかない。回避に全神経を集中しており、反撃に移る事が出来ないでいた。
残り二枚となった黒翼も大半は焼け焦げ、それでも必死にそれをはためかせながら三戸から距離を取ろうとする。
「マスター!」
そしてそこへ、ルシフェルの退路を塞ぐような形でアンジーが参戦してきた。
「おう、みんなはどうだ?」
「はいっ! 戦線復帰には時間が掛かりますが、全員問題ありません!」
それを聞いた三戸は安堵したような表情浮かべた。
そして、ルシフェルもまたニヤリと口角を吊り上げる。
「あーっはっはっは! まだ僕にもチャンスはあるぞ!」
そう叫んだルシフェルが、三戸に背を向けアンジーに肉薄する。
サムライブレードを持たないアンジーの方が与しやすいと考えたか。
「バカが……俺達の中で一番強えのはアンジーだぞ?」
三戸の声を背中で聞いたルシフェルは、正面に見えるアンジーの背後に、巨大な何かが出現するのを見た。
「四十六サンチ三連装砲! 発射!」
アンジーの号令と共に、巨大な砲塔から伸びる長大な砲身が脈動を始め、そして巨大な砲口が火を噴いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます