第91話 小隊復活

「はぁ~、そうなんですか。三戸さんや皆さんも、大変な使命を背負って戦ってきたんですね……」


 神妙な顔でそう言ったのは藤井だった。

 三戸が向こうの世界で死んでから、今に至るまでの経緯を説明された三人は、驚きというよりも使命感に燃えている。つい先日の戦闘で不覚を取って殉職してしまったが、並行世界こっちで戦う機会を与えられた。それは直接向こうの世界の退廃を食い止める事に繋がる。

 嘗て三戸と同じ隊で空を守っていた男達にとって、汚名返上のまたとない機会。


「でも、アレっすよ。挽回するチャンスを貰ったんだ。やるしかないっす!」


 そう拳を握りしめながら言ったのは、隊の中で一番若い岡本。


「流石はミトの部下達であるな。頼もしきことよ。神が言っておった新たな力とは彼らの事か」


 鷹揚に頷きながらリチャードがそう言った。だが、三戸はそれに首を傾げる。

 単純に戦力増強という意味ならそうかも知れない。アンジーの能力で戦闘機を三機ポンと出せば、一個小隊の出来上がりだ。これは確かに途轍もない力になり得るだろう。

 しかし、彼らが救世者メサイアとして並行世界こちらに送り込まれてきたのならば、がいる筈なのだ。見た所、彼らには相棒の依り代となるべき武器や道具を持っている様子はないし、アンジーのような存在もいないようだ。

 更に言うならば、あの白い世界で『神』と会話する事ができるのは、条件を満たした者だけだと言っていた気がする。つまり、あの場所にいなかった藤井達三人は救世者メサイアではない……?


「なあ、お前ら、何か愛用の武器とか道具とか、持ってたりしないか?」


 三戸にそう言われて、三人はそれぞれ懐やポケットを漁ったりしている。


「いや、特にないですね」

 

 藤井がそう言うと、他の二人もそれに倣って頷く。それを見て、三戸は考え込んでしまう。相棒を持たないとなると、一体彼らは何者なのか。


「あの、皆さん。もしかして、念じたら武器が現れるとか、そういった事はありませんか?」


 恐る恐るといった様子で、アンジーが戸惑う三人に声をかける。しかしそんな彼女の言葉に、更に三人は戸惑いを増してしまった。


「えっと、例えばこんな風にです」


 そう言ってアンジーは手の中にハンドガンを出現させた。


「武器って言ってもな……俺達の武器は――」


 戸惑いながらも藤井が目を閉じて念じた。


「おおっ!?」


 そこに現れたのは、なんとF-15J。続いて中谷や岡本も同じように念じると、やはりF-15Jが出現した。

 

「マスター……私達にとって救世者メサイアとは、仕えるべき主、すなわち上位の存在です。でも、あの三人は主というより、ブリューナクさんや青龍さん達と同じ雰囲気がするのです」


(やはりか……しかし。あいつら、『神』のヤツから説明も受けてないだろうし、納得するか?)


 単純な戦力増強としての加入は三戸としても喜ばしい。だが、この三人は同意なしで送り込まれてきた事に、少しの憐れみと、『神』に対しての憤りを覚える。


「あの、マスター? アンジーが説明してきましょうか?」


 藤井、中谷、岡本の三人は救世者メサイアではなく、恐らく自分の相棒である。それを思い苦悩する三戸を気遣うアンジーだが、三戸は首を横に振った。そして三人の元へ向かっていく。


「あのな、お前ら――――」


 だが三戸の言葉を遮って、一番年若い岡本が興奮した様子で声をあげた。


「三戸さん! これでまた同じ空を飛べますね!」


 そして藤井も。


「俺達三人、また三戸さんの指揮で戦えるんですね!」


 さらに中谷。


「F-15Jは単座なんで、また三戸さんの後ろには座れませんけど、飛ぶ時は三戸さんのケツについて離れませんから!」


 三人とも、ハナから三戸の指揮下に入るつもりである事を力説する。さらにそこへアンジーが加わった。


「皆さん! みんなで力を合わせてマスターの期待に応えましょう!」

「「「おおー!」」」


 アンジーが空に向かって突き上げた拳に、他の三人も倣って突き上げる。その後もアンジーを含めた四人は、その場で何やら活発なやり取りを始めていた。

 その予想外の展開を呆気に取られながら見ていた三戸の所へ、他の救世者メサイア達が近付いてくる。


「ミト。私達も何か新しい力を授かったのではないかと、色々と試したのだけれど……」

「ん?」


 ナイチンゲールが戸惑いながら話しかけてくる。その様子に三戸が首を傾げた。


「他の四人は特に変わった事はなかったみたいなのですが、私は……」


 そう言いながら彼女が右手を前に出して手を開く。すると、一瞬空間がブレるようなエフェクトが見えた。次の瞬間、彼女のての中に、一本の杖のようなものが出現した。

 長さは百八十センチ程で木製。上方向が太く、下に行くほど細くなっており、先端は鋭利に尖っている。さらに、下から上に向かって金属製の蛇が巻き付いている。

 ここまでは、まあそういう意匠の杖もあるだろうという印象だが、巻き付いた蛇の背中には、頭部のやや後ろから十センチ程の間隔を置いて十本の注射器が突き刺さっていた。

 さらに、大口を開けた蛇の口からは、手のひら大のパラボラアンテナのような形状をしたものが出ている。


「注射器に、その蛇の口のヤツは聴診器か? まさかその杖って……」

「ええ……ドクターを呼び出したら、このような杖になっていまして……」


 ナイチンゲールは、困惑した表情で苦笑いを浮かべた。


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