第80話 さて、どうしよう?
圧倒的な力でイフリートを片付けたサラディンとジハードのコンビ、それにジャンヌとブリューナク、関羽と青龍はそのまま陸上部隊の掃討に加わった。
「残るはヤツだけだが、どうしたモンかね……」
地表の瘴気の穴が消失した事を確認した三戸が、丸い球体の中で回復していると思われる黒翼の天使を見て呟く。
(ヤツをやるには何よりも防護膜を突き破る火力、そして赤い光線を回避できる運動性……)
そこまで考えたところで三戸はハッと気付いてアンジーを見る。アンジーの運動性と高機動。人間には耐えられないレベルのGが掛かる動きも平然とこなす。
戦闘機や戦車など、基本的に直線運動しかできないものは動きが読まれやすい。それは言い換えれば的にされやすいという事だ。前進していたものが急に横方向へ動いたり、慣性を無視して後退したり、そうした挙動ができない以上は多少の被弾は覚悟しなければならない。
だが、元の世界で使用されていた兵器の装甲ではあの赤い光線を防げない。つまり多少の被弾が命取りになる。
しかしアンジーだけはそれが可能なのだ。しかも、空中での三次元立体機動。
三戸は苦悩する。アンジーだけを死地に送り込むのは……
そうしているうちに、
球体の中の黒翼の天使には、引き続き10式戦車の砲撃が行われている。今の所反撃される様子はない。だが、アレを包んでいるあの球体はどれほどの防御力なのか、中の黒翼の天使には全く届いていなかった。
それでも、こちら側も時間を稼げるのは事実だ。これ幸いとばかりに、
*****
まずはジハードの紹介から始まる。やはり、人見知りが酷いらしくサラディンの背後に隠れて半分だけ顔を出しながら挨拶した。
「私はジハード。本当はスキュラ……」
愛くるしい少女が六匹の仔犬を従えている姿からは想像もつかないその正体のカミングアウトに、神話のスキュラを知っている者は驚きを隠せないでいた。きょとんとしていたのは関羽だけだ。
「なるほど、相棒ってのは神獣や聖獣だけじゃないって事か。でもまあいいじゃねえか。心強い仲間なんだし。よろしく頼むよ、ジハード」
三戸がそう言いながらジハードに歩み寄り、頭を撫でる。そんな彼に一瞬だけ驚いた表情を浮かべたジハードだが、すぐに嬉しそうに目を閉じて撫でられていた。
そこから先は皆が打ち解け、相棒同士も交流を深めていった。
「で、ヤツの事なんだが……」
三戸がここからが本題だとばかりに球体に目を向けながら言った。
「ヤツには遠距離からの機関砲は効果が無かった。ほとんどゼロ距離まで接近するか、もっと大火力の攻撃を仕掛けるかしなくちゃならんのだが――」
「その大火力の攻撃をブチ込んだ結果がアレという訳だな?」
全て言わずとも分かっているとばかりに、リチャードが鞘に入ったままのエクスカリバーを球体に差し向けて言った。
「そうだ。アレとやり合うには戦闘機を一撃で落とす火力にも耐え得る装甲か、もしくは絶対に避け続けられる運動性能が必要なのが大前提」
三戸が操縦するF-2が撃墜された。三戸とアンジー以外から見れば、ジェット戦闘機は鉄の鳥。そんなものが一撃で落とされるほどの威力。その時点で、耐えるという選択肢はない。
避ける、というのはどうだろうか。話によれば、その赤い光線を放つ時には予備動作があるらしい。しかし、それを躱しながら接近する事が出来るかどうか。
あまり直視したくない現実を前に、空気が重くなる。何より、
「あの、10式戦車の砲撃は明らかに効いていました。砲撃の効果が無くなったのはあの球体に包まれてからですが、あの球体に包まれる前に、黒い翼で防御していたんです。そしてあの翼は、砲撃にも耐えていました」
「ふむ……」
これはアンジー以外は知らない情報だった。三戸もそれを聞いて、今一度考えをまとめ直す。
F-2のバルカン砲は、ヤツの身体を覆う透明な膜に阻まれたが、至近距離からの射撃では防御態勢を取った。つまり、あの膜自体は絶対防御ではない。その証拠が10式戦車の砲撃による大ダメージだ。
その防御の膜が黒い翼によって生成されていたとすれば、翼自体が恐ろしく強固な防御力を持っていても不思議ではない。そして、あの球体。あれ自体には10式戦車の砲撃だけでなく、アンジーの放ったミサイルなども効果が無かったという。
「現在のヤツの翼、能力を防御に全フリしてるのかもな」
これが三戸が辿り着いた仮説だ。攻撃に割くエネルギーを、全て防御と再生に注ぎ込んでいる。それが、今ヤツが反撃してこない何よりの証拠。
「そうであれば、ヤツの再生が終わるまでは、こちらも向こうも手出しが出来ないという事になるな」
「そういう事になる。まあ、ヤツが動くまでゆっくりしようじゃないか。監視は俺とアンジーがやるから、みんなは休んでくれよ」
それじゃあそうさせてもらうか、と、各々がリラックスする場所へと散っていく。しかしそこにナイチンゲールが残っていた。
「ミト、それにアンジー。少し、お話があります」
その真剣な表情に、二人は黙って頷いた。
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