第76話 スキュラ
見た目は十歳程の、クリリとした瞳をした愛らしい少女。深緑の髪はふわりとしたショートボブで、同じ色のワンピースを着ている。足下には小型犬程の大きさの犬が六匹、纏わりついてじゃれていた。
「まさかジハードがこんなにめんこい娘っ子だとはなぁ」
「めんこくない。私の本当の姿を見ればみんな怖がる」
「本当の姿、じゃと?」
「見る?」
怖いモノ見たさという奴だろうか。ついついサラディンは頷いてしまう。
「分かった」
そう言って少女が頷くと、じゃれていた犬達が彼女の足下にあつまり、徐々に
「ほう……」
仔犬が融合していくその様子は、ややグロテスクと言えるものかもしれないが、サラディンの瞳は好奇心に輝いていた。
六匹の犬が融合していくがそれは下半身だけであり、犬の身体の上半身だけはそのまま残っている。つまり六つの上半身を持った
どうやら犬の
「なんと……お主は……」
光の粒子が集まり、徐々に形を成していく。そして光が消えた時、そこにいたのは下半身が六頭の犬、上半身が人間の女性の姿という
可愛らしかった仔犬はそれぞれが牛程もある大きさになり、顔つきも獰猛だ。また幼い少女は成熟した大人の女性になっており、衣服は身に付けていない。新緑の髪は長く伸び、まるで海藻のようでもある。しかしその容姿はあくまでも美しかった。
「……スキュラか」
その姿を見たサラディンが絞り出すように言う。
「そう。恐ろしいでしょう?」
スキュラとは、元々は美しい妖精であったのが呪いを掛けられてこのような姿になった怪物。海岸にいて獲物を狙い、時として船乗りたちも餌食になるという海の魔物。
夢の中とは違い、顕現してからの『ジハード』はどこか自嘲気味の口調であり、怯えているようにも感じる。
「そうさな。儂はその姿でも一向に構わんが、この土地の者は恐れるかも知れん。お主の力に制限がかかると言うなら別だが、普段は先程の娘っ子の姿が良いじゃろうな」
「そう、分かった」
サラディンに諭されたジハードは、再び光の粒子となり、幼女と仔犬の姿に戻った。そこにゆっくりと歩み寄ったサラディンは優しく頭を撫でながら言った。
「すまんの。お主のような娘っ子が、あのようなあられもない姿でいたのでは色々とまずかろう」
傍から見ればその姿は、祖父が孫娘を可愛がっているようにも見える。しかし、俯き加減で自信がなさそうな様子は相変わらずのジハード。
「……ブリューナクも青龍も聖獣。エクスカリバーも、あれは恐らくスレイプニル。神話の神が乗っていた馬。でも私は怪物。きっと仲間として受け入れられない。でも……」
そこまで言うとジハードは、意を決した表情で視線を上げた。
「私はあなたの仲間を助けたい!」
サラディンはそれをひたすらに優しい視線で受け止めた。そしてずっと頭を撫で続けている。
大丈夫だ。出自や容姿で判断する者など自分の仲間にはいない。どうしても心配ならば行動で示せばよい。それでもダメなら自分だけはお前の味方でいよう。自分の相棒はお前以外にはいない。
そんな思いよ伝われとばかりに慈愛を込めるサラディンに、ようやくジハードは笑みを浮かべた。
「……何だか、おじいちゃんみたい」
「ぬ……ま、まぁいいわい。ジハードよ、助太刀に行く前に少しばかり確認したい事がある」
「うん」
まずは今までの
「違う。それはサラディンの能力。あなたの属性は『重力』。私は剣を通じてそれを増幅していただけ」
「ふむ。ではお主の力は?」
「私の属性は『水』。水を自在に操れる。例えそこに水が無いように見えても、この世界は水分で満ちている」
続けてサラディンは一通り、疑問に思っていた事を聞いてみた。
また、リチャードのエクスカリバーに宿るのがスレイプニルだとすれば、それはやはり北欧神話に由来するものでイングランド王とはあまり関係がないように思える。
そしてサラディンとスキュラに関しては全く接点がない。
「それはおそらく……」
ジハードは少し考える素振りを見せてから答えた。
「あなた達
「全ては神の思し召し……という訳じゃな」
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